萬狩はふと、頭上の煌めきに気付いて顔を上げた。

 そこには満天の星が広がっていて、萬狩は呆けたように口を開いて見入った。

 入居して今の時点まで、彼は自分が、空に目を向けようともしていなかったのだと気付かされた。人工の明りがほとんどない高台で、それは異世界のような異色の美しさを放って夜空を彩っていた。

 こうして見上げていると、まるで星空に落ちていきそうだ、と錯覚した。広大過ぎる景色に圧倒され、自分があまりにもちっぽけなのだと悟らされる。

 生き物とは結局のところ、この大きすぎる世界の中では、あまりにもちっぽけで無力な存在なのだろう。萬狩が、こうして見上げる夜空の素晴らしさは、刻一刻と変化して、きっと全く同じ光景が訪れる事はなく、作り出す事さえ出来ない。だから誰も、彼と全く同じ感動を味わう事もないのだ。

 かさり、と草を踏む音がした。

 つられて目を向けると、シェリーが隣に腰を降ろして、同じように満天の星空を見上げていた。今夜は月がないから、きっと流れ星もよく見えるに違いない。

「東京の空とは、大違いだなぁ」

 萬狩は煙草の煙を深く吸い込んで、それから、ゆっくりと夜空に向かって煙を吐き出した。

 今夜は、煙草の煙がやけに胸にしみる。

 そう思いながら、深く深く、ゆっくりと息を吐き出した。

 それからしばらく、一つの小さな流れ星が、遠い夜の町へと流れ落ちていくのを、一人と一匹は、互いに触れない距離でそれを見届けた。


 萬狩は流れ星のジンクスを思い出したが、どんな事を願えばいいのか、何をどう願えばいいのか分からず、結局は願い事を胸で唱える事は出来なかった。