先生の返事は、いつも以上に穏やかなものだった。
「成長なんて、この時期にはわからないもんなんだ。でもな、俺が思うに青春なんて、痛くてどうしようもないんだよ。痛いから青春なんだ」
「……青春って痛いんですか」
「おお、痛いぞ。めちゃくちゃ痛い。きっとそれは大人になってから味わうものとは少し違う。大人になって過ごす青春も大事だが、今の綿世たちの青春は鮮度があるような気がするんだよ。十代だから負うその痛みは、人生にとってかなりでかい。だから、痛いんだよ。痛くてどうしようもなくてもがくんだ」
 はは、と笑う先生はきっと思いを馳せるように何かを見つめている。
「先生にもあったんですか? 痛いって思う青春が」
「あったあった。そりゃあ先生も生まれた時から先生じゃないからな」
「それはそうですけど……」
 当たり前だと言わんばかりの顔で見れば、先生は豪快な笑みを作る。
「俺はな、文化祭実行委員を綿世と瀬名に頼んで良かったと思ってる。なんせ、あんな読書感想文が書けるんだからな」
「え……」
 驚きで思わず言葉を失った。
 それが前提だったかのように話され、目を見開いて先生を見上げる。
「匿名だけど知ってたんだ。お前ら二人だって。だから、委員を頼んだ」
「どうしてわかったんですか?」
「お前は俺が何の教科担任なのか忘れたのか?」
 そう言われて一瞬はっとする。けれど、そうであっても匿名を当てるのはとても並大抵の事じゃない。
「国語表現ですけど……でも、これだけ生徒いるのに」
「わかるさ。当たり前だろ。お前らの担任なんだから」
 そう至極当然だと言わんばかりの物言いに「そ、うでしょうか……」とやっぱり疑問が抜けることはなかった。
「あの感想文は対照的だけどな、一つだけ共通点があるんだよ」
「共通点?」
「どっちも、登場人物をよく見てる。たった一回しか台詞を言わないような脇役だって見逃さない。それが良い悪い関係なしに拾えるのは一種の才能だと思うんだよな」
 感心したように微笑を浮かべたものだから、恥ずかしくなって俯く。
「だからお前らに頼んで正解だったよ。きっとクラスメイトを見てくれる役割を担ってくれるんじゃないかって思ったから」
 やり遂げてくれてありがとな、と頭の上を乱雑に撫でられる。その手の温もりが温かくて、思わず目頭が熱くなった。
「綿世が向き合えたらなら、それでいい。誰からも嫌われないようにしたかった奴が、その皮を破ったんだから。俺はそっちに意味があると思う」
 だから、気にすんなと更にぐしゃぐしゃと髪を撫でまわされいよいよ視界が左右の髪で埋め尽くされる始末に。
「こうなったのも先生のせいなんですけど」
「お、言うようになったなぁ」