空白になった廊下の掲示板を見ていた。
貼られることのなくなった読書感想文は、今や次の感想文を待ち侘びているようにも見える。
文化祭が終わって一週間。校内に残っていた文化祭の面影は今や綺麗に消えている。いつも通りの日常が戻ってきた。
「寂しくなったな」
隣で山川先生が腕を組みながら、何も貼られていない掲示板を見て呟く。
「……そうですね」
いつの日か、瀬名くんが言っていた言葉を思い出す。
『心の拠り所だったんじゃない?』
そう言われて、私は初めて自分が書いてる意味に気付いた。きっと、どこかに自分の居場所が欲しかったんだ。ここになら居ていいよ、と言ってもらえるような場所が。それがこの空白になってしまった掲示板だったのだと思う。
『書かなくて済むほど、今が充実してるんじゃない?』
瀬名くんはそう言っていた。
なら、あの綺麗な感想文も貼られなくなったということは、瀬名くんも書かなくて済んだのだろうか。
本当のところは本人しか分からないけれど、それでも、そうだったらいいのにと思ってしまう。
先生が、そいえば、と思い出したように口を開く。
「心の成長は出来たか?」
「え……」
成長、確かにあの文化祭は心の成長がテーマのものだった。すっかりそこが抜け落ちていたことに気付く、改めてその成長という部分を自分の中で考えてみた。
「……どう、でしょうか」
この二か月、怒涛の毎日だった。気付けば始まってしまい、気付いたら終わってしまっていた。
「正直、よくわかりません」
果たして成長出来たと自信を持って言えるかと聞かれれば、そこに満足のいく答えは出せないだろう。
「……でも、人の痛みは、少しだけわかったような気がします」
今まで、人との関わりを避けてきた私にとって、誰かの痛みに触れられたのは大きな進歩だったと思う。
「今と、ちゃんと向き合えたと思います」
誰しも、皆が心の闇を抱えている。
いつだって笑ってやさしい琴音だって、痛みを抱えて乗り越えていた。
強くて口数の少ない桐原くんだって、無条件に強かった訳じゃない。
そして、何を考えてるのか分からない瀬名くんも、深い闇を背負っていた。
誰しもが心の闇を抱え、その痛みと戦っていた。
私はそんなことを今になってようやく気付けた。
「それで十分だよ」
貼られることのなくなった読書感想文は、今や次の感想文を待ち侘びているようにも見える。
文化祭が終わって一週間。校内に残っていた文化祭の面影は今や綺麗に消えている。いつも通りの日常が戻ってきた。
「寂しくなったな」
隣で山川先生が腕を組みながら、何も貼られていない掲示板を見て呟く。
「……そうですね」
いつの日か、瀬名くんが言っていた言葉を思い出す。
『心の拠り所だったんじゃない?』
そう言われて、私は初めて自分が書いてる意味に気付いた。きっと、どこかに自分の居場所が欲しかったんだ。ここになら居ていいよ、と言ってもらえるような場所が。それがこの空白になってしまった掲示板だったのだと思う。
『書かなくて済むほど、今が充実してるんじゃない?』
瀬名くんはそう言っていた。
なら、あの綺麗な感想文も貼られなくなったということは、瀬名くんも書かなくて済んだのだろうか。
本当のところは本人しか分からないけれど、それでも、そうだったらいいのにと思ってしまう。
先生が、そいえば、と思い出したように口を開く。
「心の成長は出来たか?」
「え……」
成長、確かにあの文化祭は心の成長がテーマのものだった。すっかりそこが抜け落ちていたことに気付く、改めてその成長という部分を自分の中で考えてみた。
「……どう、でしょうか」
この二か月、怒涛の毎日だった。気付けば始まってしまい、気付いたら終わってしまっていた。
「正直、よくわかりません」
果たして成長出来たと自信を持って言えるかと聞かれれば、そこに満足のいく答えは出せないだろう。
「……でも、人の痛みは、少しだけわかったような気がします」
今まで、人との関わりを避けてきた私にとって、誰かの痛みに触れられたのは大きな進歩だったと思う。
「今と、ちゃんと向き合えたと思います」
誰しも、皆が心の闇を抱えている。
いつだって笑ってやさしい琴音だって、痛みを抱えて乗り越えていた。
強くて口数の少ない桐原くんだって、無条件に強かった訳じゃない。
そして、何を考えてるのか分からない瀬名くんも、深い闇を背負っていた。
誰しもが心の闇を抱え、その痛みと戦っていた。
私はそんなことを今になってようやく気付けた。
「それで十分だよ」