プラネタリウムと記載したあと、その下の欄に手が止まった。
【これをすることで得られる成長はなんですか?】
 ぐっとシャーペンを引っ込めたくなって紙から離そうとすれば、隣からひょいっと腕が伸びる。
 瀬名くんが私のシャーペンを手にすると、迷うことなく空白の欄を埋めていく。
「今と向き合い、今を生きていけそうだから、です?」
 書かれた事を口にすれば「ん」と短い返事だけが返ってきた。
「出し物なんて、多分何でもいいんだよ。重要なのはそれで得られるものだと思う。俺が思うに、別にプラネタリウムをするから成長出来るとか、そういう話じゃなくて、その過程が大事なんじゃねえかなって」
「過程……」
「心の成長に正解なんてなくて、出し物にも正解はない。重要なのは、何が自分達の中で変わったかってことだと思う」
 瀬名くんの成長という定義に、私はぎこちなく頷く。
「向き合うことの大切さ、みたいなのを知ってほしいんじゃないの? この学校は」
 その言葉に、協調性のなかったクラスメイトたちの顔が思い浮かぶ。
「何かに真剣に取り組むのがださいとか、それ見てからかったりとか、そういうの、本当はださくもなんでもなくて、かっこいいことだって知ってほしいのも一つあるだろ。特に俺らみたいな年齢に」
 多感な年ごろ。真面目になることが変だという風潮は小学生ぐらいからあったかもしれないけれど、その意識改革をこの十代後半という年齢でしてほしかったんじゃないかと瀬名くんは考える。
「まぁ、本当のところはどうか知らないけど」
 そう最後に笑った彼の横顔が印象的だった。
 きっと、そうなのかもしれない。正解がないと瀬名くんが言うから、私だって本当はどうなのか知らないけれど、でも、今と向き合う姿勢が大切なのは分かる気がした。
「だからさ」
 くるくると、器用にシャーペンを回す彼が、
「綿世さんも、〝今と向き合うべき〟だと思うよ」
 そう、真剣な眼差しでぶつけるものだから、思わず息を呑んだ。
「過去に囚われて、前に進めない綿世さんが、もったいないと思う」
 ——過去。
 私にとっての過去は、きっと、中学のあの時だ。