第三週の月曜日。三回目の話し合いが行われる日。
 桐原くんの席は空いていて、今日は話し合いでさえ参加してもらえない結果となった。
「引き続き、候補ある人どうぞ」
 瀬名くんの合図がかかっても、誰も口を開かなかった。誰かが言ってくれるのを待つ。そのスタンスは一週間経っても継続されたまま。
 アイデアは何も浮かばず、だんまりを決め込んだ空気がしばらく続く。
「よし、じゃあとりあえずやりたいもの挙げてみるか」
 パンと手を叩き、空気を変えたのは山川先生だった。
 生徒達だけの話し合いに今まで先生はあまり口を挟まなかったけれど、今回はさすがにこのままではだめだと思ったのだろう。
「やりたいことって言ってもね」
 そんな声だけがあがり、大した候補は一つもない。
〝誰か適当に言え〟そんな声にならない声が教室一体を包んでいる。
「なんでもいいぞ、とりあえずやりたいものあげて候補を出していこう」
 そう山川先生が問いかけるものの、クラスメイトたちは視線を合わせようとはしない。右往左往する目は〝自分は関係ないですよ〟とアピールしてるみたいだ。
 自分にその的が集中しませんように、その祈りがひしひしと伝わってくる。
 こんなもの、なんだろうな。
 何かが起こったとき、率先して動いてくれる人なんてこの学校にどれだけいるのだろう。引っ張っていってくれる人は、果たしているのだろうか。
 皆、その場の空気に呑まれて、皆がそうしてるからそうする、というスタンスを貫くんじゃないか。
 そうしていれば輪から外れない。自分は責任を果たさなくて済む。
 こうして傍観してる私だってそうだ。名ばかりの委員。まとめる力がないからこうして協調性のない空間が出来上がってしまった。
 瀬名くんは、やっぱり何も言わなかった。ただその空気を見つめて、静かに瞬きをするだけ。
 お母さんの言いつけを今も守っているんだろうか。第三者の立場で見ているのだろうか。
 何を考えているのか、一番読めない人。
「皆さ、協力しようよ!」
 教室の真ん中、丁度中間地点に座る香川さんが困ったように声をあげた。
「ほら、私たちのことなんだし、このままだと本当に決まらないから」
 愛想笑いを浮かべ、どうにかこの空気を変えようと立ち上がる彼女の姿に周りも目を合わせながら「まぁ」と感化されたように見えたけれど、
「ちょ、琴音。寒いって」
 せせら笑うように響いたその声が、しんと静まり返った教室で響く。
 廊下側の一番後ろの席に座るのは渡辺さん。彼女が、香川さんを馬鹿にしたような顔で笑っている。