何も変わらない今の志波道行のままで、陽の光を浴びたいという二人の願いは叶えられるものではないと、彼自身諦めているようだ。
志波さんは俺に、陽の下で会えたら嬉しいと言っていた。きっとそれは、陽の光を浴びたいと望んでいる彼の本心だ。
背もたれに身を預け、全身で列車の揺れを感じていた。心地の良い振動は眠気を誘うものであるが、意志を持って持ち上げることが叶わないくらい、突然瞼が重くのしかかった。強烈な睡魔に襲われる。
「君だったら、どちらを望む? 陽の下か、日陰の下か。親の愛を望む君なら、もう一人の親にも従うのかな」
俺が……。
もし俺が、この人と……あの人達と同じ立場なら、俺は……。
意識がある中、目は開けられず、身体は動かせない。
呼吸をしているのか自分自身でもよく分からず、金縛りに遭っているかのようだ。息が出来ていなければ人は生きることが出来ず、死に直面しているような恐怖に捕われ、心の中で助けを求める。声も当然、出せずにいる。
聴覚だけが働き、周囲の音を耳の中に届ける。直ぐ近くから足音が聞こえ、人の気配を感じ取る。
「おやすみ」
頭の上に二回、優しく手の平が乗せられた。その声とその手に、安心をもたらされる。
きちんと息はしているのだろう。
彼に焦りが感じられない点と、彼に叩き起こされない現実が、自分が正常であるという証だ。
恐怖が消え去り、意識を底に沈めようと気を緩める。
暗闇で満ちた視界に、微かな赤色が広がった。暖かな光の熱が顔に降りかかる。
線路を走る列車の音は、もう聞こえなかった。