『陽野君って、いっつも勉強しているよね』

『勉強ばっかで毎日楽しいのかな』

『前に遊びに誘ったら、睨まれたんだよ』

『一言『忙しいから』って笑いもせず。怖かったよな』

『前のテストが学年二位だったからじゃね?』

『テスト前の休み時間とか殺気立ってるし』

『真面目クンにとってクラスメイトは敵なんだろ』


(そうだけど?)


 成績が相対評価なんだから、敵に決まっている。

 楽しくなくても、つまらなくても、しなきゃいけない事なんだ。

 親からの愛情を貰えることが当たり前になってしまっているのだろう彼らに、怒りに近い嫉妬を込み上がらせた。休み時間を、放課後を、笑って気楽に過ごしている彼らが腹立たしくてたまらない。

 幸福に満ちた人の顔を見ることは、自分自身の首を苦しめた。





◇◇◇◇◇


 物語の起承転結のようにそれは綺麗に繋がっていなくて、リモコンで操作するテレビのザッピングのよう。

 途切れ途切れに流れた過去の思い出は全て、現実であった悪夢というものだ。どのチャンネルも全て自分にとってはバッドエンドの結末であり、一つくらいハッピーエンドの録画はないものかと呆れてしまう。チャンネルを切り替えたところで見たい思い出は流れない、無駄だと心が疲労して、諦めた頃に意識が徐々に浮上した。

 夢の電源を落とした視界はまだ暗闇から抜け出せない。少し硬めのクッションの生地と、心地の良い静かな揺れを身体が感じ取る。振動の音が耳の中に飛び込み、そして……。


『次は終点、本那庫――』


 車内に響く放送が、閉じた目を開かせた。


「……ここ」


 どこ?

 覚醒していない寝ぼけた頭で周囲を確認する。空席一つなく混雑していた車内は貸し切りの状態で、もたらされていた二酸化炭素は換気によって澄んだ空気に変わっていた。人の存在で殆ど届かなかった冷房も今では半袖からはみ出る腕を直撃して冷やし、少し寒いと感じるほどだ。