日曜でも部活動があれば制服を着て学校へ行く。休日に彼女が制服を着る理由などそれしかないと思っていた。
「行ってないよ」
今日は行かない、ではなく?
「でも制服」
「これは学校の」
不登校か自主休校だろうか。板書によって手首はノートの上を擦り、制服の袖は汚れるものだというのに、彼女のセーラー服にある袖の白いラインは新品のように真っ白だ。
学校に行く行かないは本人の自由であるため、とやかく言う権利は無い。でも、制服のままうろつくのはどうなのか。その学校の看板を掲げながら歩くようなものだ。
そう思って、俺も人のことは言えないことに気が付く。着る服が他になく、寝るときに貸して貰っているパジャマで出掛けるわけにもいかないというのは、事情がどうであれ学校側からしてみれば迷惑なことに変わりなく、言い訳に過ぎない。
深くは聞かないことにした。会話に詰まって無言の空気に耐えられなくなれば、話題として借りよう。相手にとっては聞かれたくないことかもしれないけど。
「まだ自己紹介をしていなかったね。改めまして、木戸瀬千鶴です。アナタは?」
「陽野夏向」
「よろしくね、夏向!」
いきなり呼び捨てなフレンドリーな対応に驚きこそしたが、女の子から笑顔を向けられたことがなく、そちらの方に困惑した。
脳の処理が追いついていない間に、手首をを掴まれ引っ張られる。
「どこに行くの?」
「色々! 本屋さんとか行きたいんだけど、いい?」
本屋さん。
この田舎町に本屋がいくつもなければ、志波さんが勧めてくれた場所のことだ。土地勘も観光地も、他に知っている場所もない以上は地元の人間に任せる方がいい。
頷いて了承を示した。掴まれて動けない腕に、蚊が餌を求めてやってきた。