「子供達はまだ小さい。だから、親しくなれば泣いてキミをこの町に引き留めるし、キミも帰りずらくなるだろう?」

「ああ……」


 それだけなのか。たったのそれだけで、彼は子供とかかわるなと言うのか。

 他に、本当の理由があるのではないのか。もしそれが本当の理由だとして。


(俺がこの町に残ることで、困る何かがあるんですか?)


 食費、気遣いによる疲労等、あるにはあるだろう。放っておけなかったから、仕方なく家に泊めた。けれど、それらの負担を恐れて告げたようには見えない。まるで町そのものが俺の存在を危惧していると、代弁しているよう。

 俺の存在がこの町では許されないのなら、アナタはどうして俺をここに留めたのか。考えても分からない問題は、暗記科目で喉元まで出かかっているものでない限り、誰かに教わるまで分からないままだ。

 彼の心配は杞憂だろう。仮に三日間を子供達と過ごしても、引き留められるくらいに好かれることはない。たったの三日、残り二日、午後には帰るだろうから二日もない。


「同年代くらいの人はいいですか?」


 志波さんの許可を求める必要はないが、住まわせてもらっている以上は俺に何かあれば志波さんに責任が降りかかるわけで、念のため聞いてみる。こちらの身の周辺のことを知る権利があり、知らせておいたほうがいいと思った。


「誰か、知り合ったのかい?」


 聞かれて、名前を聞いていなかったことを今になって気付く。子供達が呼んでいた彼女の名前を思い出す。


「『ちづる』っていう女の子と」

「ああ、千鶴ちゃんか。そうか……目が覚めたんだね」


 一人言のように呟かれた声は聞き取れそうで聞き取りにくかった。長らく意識不明で入院でもしていたのだろうか。


「公園のすぐ目の前にある、赤い屋根の家に住んでいる子なんだ。彼女なら大丈夫。キミを引き留めることはしないだろうし、笑って送り出してくれるだろう。遊ぶ約束をしたなら、楽しんでおいで」

「行くとはまだ言っていないんですけどね」

「行ってきたらいいよ。楽しい子だよ。色々と物知りだし」


 志波さんに勧められた以上、行くしかない気にさせられる。行かない選択肢を奪われたような話の流れ。


(彼女は俺を引き留めないから、構わない……)


 本当の理由、だったのだろうか。

 考えても無駄だというのに、再び頭の中を過った。


「じゃあ、明日も出掛けてきます」

「うん」


 遊びに行くお金を持たせようとしてくれたが、そこは丁重にお断りした。