期末テストが終わった今日、次の日からは三日間の連休だ。クラスメート達が解放に満ちた笑顔を浮かべていたのに対し、俺が抱いていたのは憂鬱といえる感情に近い。このホームから飛び込めば明日を過ごさなくて済むと、馬鹿なことを考える程度には家で過ごすしか予定のない連休が嫌だと感じている。

 心だけでなく全身も。帰り道の足取りは重く、いつもより歩幅は小さかった。なのに駅までの距離はいつもより短いと感じて、それが余計に憂鬱だった。


 電車も来なければいいのに。


 どこの時計もデジタルであろうとアナログであろうと待ってはくれず、まだまだ先だと思っていた電車はあっという間に目の前に停車する。乗る乗らないは自由でも、何のために座らずに立って並んだのか。

 足を無理やり前に出して、電車の中へと踏み入れた。優先座席を避けて空席が見える席の方へ移動して、長座席の一番端に腰を下ろす。

 あとはもう、身を任せておけば電車が嫌でも最寄りの駅まで連れ帰ってくれる。


 膝に乗せた鞄の中から大きな教科書同士の間に挟まる小さな文庫本を取り出した。学校帰りの電車の中で過ごす一時間くらいの暇つぶしは暗記科目の教科書を眺めるが、テストが終わったその日だけは好きな本を読んでもいいと、自分にご褒美をあげている。

 著者、本那水城。「数世界の選択者」。昨年に二巻が発売し、近々三巻の発売が予定されているこの本は、通称「数世シリーズ」と呼ばれている。

 各章のメインとなる人物は書店に置いてある本の世界に入ってしまうが、実はその世界こそが本来生きるべき世界で、どちらの世界で生きるか双方の世界を体験して葛藤に苦しむ。各々が悩んだ末に、自分の世界を選ぶ物語がいくつも詰まった短編集だ。