「ただいまです」

 玄関を開けて見慣れたリビングへと足を運ぶ。

 「おかえり」

 そこにはクラネスさんがいた。私の帰りを待っていてくれたのか、それとも休憩をしに立ち寄ったのか。どちらにしてもちょうど良かった。

 「頼まれていた透明なシルク、譲ってもらえましたよ」

 「さすがだな。まぁ灯なら難なくこなすと思っていたが」

 それは相手がモモさんだったからで、次からはどうなるか分からない。
 私はクリアシルクの入った箱を渡した。

 クラネスさんは中を確認すると、早速作業に取り掛かった。
 作業部屋は以前よりも片づいていて、追われていた依頼は既に終えたそうだ。


 「そのシルクをどうするんですか?」

 「見ていれば分かる」

 テーブルの上に並べられたのはアルコールランプみたいなものと氷水を入れたボウルにビーカー。三脚やら発熱皿やら、小学生の頃に理科の実験で使ったことのあるものもあった。
 もしかして燃やす?でもシルクは燃えたら粉になっちゃうんじゃ。

 「これはただの炎ではない。俺が作った特殊成分の含まれているもので、シルクが溶けるようになっている」

 言葉通り熱したクリアシルクは透明な液体に変わっていた。それをビーカーに入れ、氷水の入ったボウルにつけて少し混ぜる。

 「え、うそ……」

 液体はあっという間に固まり、透明な石になった。

 「これは天然水晶の原石。美しいだろ」

 透き通る美しい石は、光に反射して輝いている。薄く繊細だったクリアシルクが、立派な原石へ姿を変えた。
 それを見た私は「綺麗……」と言葉を零した。