「うーん……ペンダントは届いていないみたいね」

 生徒会室の助言をもらった翌日、糸魚川は保健室に向かった。届けられた落とし物はあまりにも多く、養護教諭の()(まち)先生と共にペンダントを探すが、どこにも見当たらない。届けられた落とし物はノートに届いた日付から見つけた場所までしっかりと記入していたが、その記載も見当たらないという。おかしいわね、とノートを片手に溜息をついた。

「この日は私、会議で隣町の学校に行ってたから、落とし物があれば事務室からこっちに届けてもらえるはずなんだけど……」
「そうですか、わかりました。もう少し探してみます」
「ごめんなさいね、力になれなくて。もし届いたら糸魚川くんにすぐ伝えるわね」

 申し訳なさそうにする先生に、糸魚川はお礼を言って保健室を出る。

 最初から無いとわかっていた前提で尋ねたからか、あまりショックは受けていない。そしてなぜか、今後も届けられることはないと何となく確信していた。

 ポケットに入れたスマホで時間を確認すれば、次の授業まで五分ほどあった。教室に戻る途中でも廊下の端を気にしながら歩いていると、近くで黄色い歓声が上がった。

 顔を上げると、昨日生徒会室で会った半井綾人が、女子生徒たちに囲まれていたのが見えた。長身で顔も良い――条件が揃いすぎると目立ってしまうものらしい。 糸魚川が見て見ぬふりをしようと視線を逸らした途端、半井が糸魚川の姿を捉え、女子生徒をかきわけてやってきた。あまり感情が顔に出にくい彼にしては、やけにげっそりと疲れているようだった。

「やっと見つけた、探したぞ」
「……笑いに来たんですか?」
「ちげぇよ。ちょっと話せるか?」
「授業まであと五分もありませんけど」
「すぐ終わる」

 答えを聞く間もなく、半井は糸魚川の背中を軽く押して女子生徒の群れから離れようとする。おそらく話がどうのこうのというより、彼女たちから逃れたかったのだろう。後ろから睨みつけられるような視線が糸魚川に突き刺さっている。
 廊下の隅に行くと、半井から大きな溜息が聞こえた。

「人気者も大変ですね」
「好きでこうなったわけじゃない。……そんなことより、随分浮かない顔をしているな。保健室にはなかったのか」
「三年生になったら人を見透かす方法でも学ぶんですか?」
「ほまれが言ってただろ、お前は顔に書いてあるって」

 やっぱり変な授業でも受けているんじゃないか。