すると「あったあったーっ!」と顔を上げたほまれが、ローテーブルに見取り図を広げてみせた。

 糸魚川が在籍するクラスの教室は三階にあり、理科室は一階の端と離れた場所にある。校内での移動は五分もかからないが、道中は階段が多い。最短ルートでも階段を四回は下って行くしかない。途中には職員室や生徒指導室、保健室があることから人通りが多い場所でもある。
 ほまれは少し考えながら、見取り図を指さしていく。

「トイくんが通ったルートは、普段から多くの生徒がよく利用している最短ルートだね。もう一つ最短ルートがあるとするなら、非常階段を通って一階まで行く方法があるけど、君のクラスからだと少し遠い。君が入学してから一度も非常階段を使っていないのならそこは省いていいだろう。……さて、ルートを絞って探すといっても、君が実践している方法とほぼ変わらない。通ったルートのカーテンや消火器の裏までくまなく探すこと。研究室や職員室があるから、誰かが届けてくれていることもある。落とし物はすべて保健室で管理しているから、養護教諭の先生に聞いてみるといい」
「落とし物……保健室で管理だったんですね。事務室に行ってました」
「あれ? 事務の人、教えてくれなかった?」
「窓口が忙しそうだったので、結構雑でした」
「そっか、確かにそろそろ月末処理の時期だから忙しいんだろうね。うーん……あとはもう一度、自分の身の回りを整理するとかどうかな。案外鞄の底に埋まっていたり、自宅の机に置いたことを忘れていることもあるだろうし。……半ちゃんはどう?」

 急に話を振られた半井は、ゆっくりと見取り図から糸魚川へ視線を移す。

「ペンダントはいつ無くしたんだ?」
「えっと……せ、先週の月曜日です」
「となると、無くして一週間は経っている。人通りの多い廊下にそのまま放置ってことはねぇと思う。ひとまず保健室で落とし物として届けられているか確認してこい」

 俺はそれくらいしか思いつかない、と自分用のマグカップに注いだ紅茶を口にする。それ以上はないらしい。

「うん。とりあえず聞きに行っておいで。一人で心細かったら半ちゃんを連れて行っていいからさ」
「いえ、大丈夫です。とても参考になりました」

 想定内だったとはいえ、助言はもらえた。これ以上ここに居座る必要はない。糸魚川は立ち上がって二人に頭を下げた。

「ありがとうございます。もっと探してみます」
「いえいえ。これでお役に立てたなら何よりだよ」
「それじゃ僕はこれで――」
「トイくん」

 出ていこうとドアに手を掛けたところで、背後からふざけた名称で呼ばれる。振り向くと、ほまれがニッコリと笑みを浮かべて言った。

「またおいで。いつでも大歓迎だからさ」
「……考えておきます」

 顔は笑っていたのに、目の奥はとても冷めていた。本当に見透かされたような気がして、糸魚川は足早に生徒会室を後にした。


「んふふっ」
「随分嬉しそうだな」
「そりゃあ久々の相談だからね。……だからこそ、彼には楽しい学校生活を送って
ほしいなぁ」

 夕日が差し込む生徒会室に残った二人の間でそんな会話がされていたことなど、彼は知る由もない。