きっとそれは間違いなく、生徒会にとって時間の無駄でしかない相談内容だろう。現に相談者である糸魚川自身が呆れてしまうのだから、いくつもの生徒の相談にのってきた彼女にとっては気の抜ける話だ。探し方を教えてほしいなんて、「道端で捨て犬を拾ったが、ペット禁止の家のため里親を探してほしい」といった相談の方がよっぽどマシだったかもしれない。

 しかしあろうことか、彼女は溜息一つ吐くどころか、緩んだ口元を手のひらで覆い、大きな目を細めて笑った。可愛らしいと思う反面、どこかぞっとするような寒気がした。糸魚川が呆気をとられて固まっていると、ほまれは感慨深く頷いた。

「そっかそっか、それほど大切なものなんだね! わかった、私なりの探し方をトイくんに教えよう。半ちゃん、校内の地図を出して?」
「自分で出せ。お前の後ろの棚にあるだろ」
「んもー! つれないなぁ。せっかく可愛い後輩が来てくれたんだよ?」
「なおさらお前がやれ。可愛い後輩なんだろ?」
「半ちゃんもでしょー!」

 しょうがないなぁ、と小言をこぼしながらほまれはソファー越しから近くの棚を漁り、校内の見取り図を取り出して理科室を探し始めた。

 すると、視界の端からティーポットがちらつくと、半ちゃんと呼ばれていた男子生徒が糸魚川をじっと見ていることに気付いた。

「悪いな、糸魚川。少しだけあのアホに付き合ってやってくれ」

 糸魚川の空いたカップにお代わりの紅茶を注ぐ彼――(なから)()(あや)()は、モデルかと勘違いするほど長身のスタイルとクールな表情から、学校一のイケメンだと評される。噂ではほまれとは入学当初から仲が良いようで――保護者といった方がいいかもしれない――、二年生の頃から副会長として生徒会に加入した。自由奔放な彼女を扱える上級生がおらず、半井に上級生が何度も頭を下げた話は有名な話だった。

「な、半井先輩も驚かないんですか?」
「何が?」
「何がって……僕が持ちかけたのは相談でも何でもないんですよ?」
「でも困っているんだろ?」

 あっけらかんとした顔で首を傾げて聞いてくる。

「困っている生徒がいるなら応援する――それが、ほまれが生徒会長に就いた時からずっと掲げている生徒会の在り方だ」
「応援……? 黙って様子を伺うってことですか?」
「ニュアンスだとそうなるな。要は手助けと応援はしてやるから、その後の結果はお前次第ってことだ。俺たちは探偵ごっこをしているわけじゃない。それに自分の問題なんだから、部外者が解決したら意味がないだろう。あくまでも生徒会の掲げたモットーの上で活動しているだけだ」
「はぁ……」

 腑に落ちない部分もあるが、結局のところ、今回の相談は生徒会のモットーに反していないということになる。相談者の話を聞いてヒントを与えるところまでが、彼らの仕事らしい。