「し、失礼します……」

 ゆっくりとドアを開けると、途端に呆気を取られた。事務机の他にボロボロのソファーとローテーブルが中心に置かれており、教室で使われている学校机は端に寄せられ、ポットやコーヒーサーバーを備え付けられたドリンクコーナーと化している。

 その中で一人、ソファーにうつ伏せで本を読むジャージ姿の女子生徒がいた。生徒会室のドアは誰かの自宅と繋がっているとでもいうのか。

「んー? どうしたの? 早く入っておいでよ」

 糸魚川が一向に入ってこないことが気になったのか、女子生徒は上半身を起こしてこちらに目を向けた。長い黒髪はボサボサで、銀縁のボストン眼鏡の向こうで大きな瞳が糸魚川を捉える。彼女が着ているジャージは三年生に振り分けられた紺色の体操着だった。ソファーの下には紺色のサンダルが無造作に転がっている。

「もしかして生徒会室が怖い? 大丈夫、魔の巣窟とか噂されているけれど、ここには私と(はん)ちゃんくらいしか来ないから。気兼ねなく入っておいで」
「えっと……えぇ……?」

 おそらく先輩であろう彼女は、屈託のない笑顔で「おいでおいで」と手をひらひらと振ってくる。

 さっきまでの緊張感を返してほしい。そもそも誰だあなたは。

 ――糸魚川の心情は非常に困惑していた。思わず後ろに下がると、とん、と何かにぶつかった。

「邪魔なんだが」
「――うおわっ!?」

 頭の上から低い声が聞こえて、思わずのけぞって驚いた。男子高校生の平均な身長の糸魚川に頭ひとつ、いや、ふたつも違う長身の男子生徒に見下されることは、育ち盛りの高校生であれば幾度となく経験するだろう。まさかそれが、校内でイケメンと評される三年生だとは思わなかっただろうが。

 無表情な彼を前に、糸魚川は身体を強張らせる。一ミリでも動いたら拳でも飛んで来るのではないかと内心怯えていれば、見かねた女子生徒が「半ちゃん、怖がってるよー」と宥めた。
 彼女の声にハッとしたのか、申し訳なさそうに眉をひそめた。

「悪い。怖がらせるつもりはなかった」
「は、はぁ……」
「でも半ちゃんのおかげで中に入れたね。よかったよかった」
「え?」