「ところで、僕も聞きたかったんですけど……垣田に何を吹き込んだんですか?」

 糸魚川が思い出したように尋ねた途端、半井がサッと顔をそむけた。それと同時にほまれと古町先生の笑みが花開くように明るくなったのを見て嫌な予感がした。

 嫌がらせをしていた垣田とその取り巻きたちは、あの後クラス担任から厳重注意を言い渡された。バスケ部の次期エースという彼の実力は確かなものだが、それとこれとは話が別だ。退部にならなかっただけ良かったと思うしかない。

 さらに噂では、厳重注意を受けた生徒は皆、生徒会と教師が考えたノルマをたち成する必要があるという。実際の内容は受けてみなければ分からない。

 唯一知っている人間の一人――古町先生が糸魚川に聞き返す。

「あの日以来、垣田くんはトイくんに何かしてきたのかしら?」
「してきたというか……焼きそばパンを買い占めてくるようになりました」

 垣田は糸魚川に対して「あんなことしてごめん!」と振り切るように頭を下げただけでなく、購買で人気の焼きそばパンを買っては渡すという、しもべのような働きをしている。糸魚川が断るも「俺の気が済まない!」と止める様子はない。少なくとも厳重注意のノルマの内容ではないらしい。

 ほまれと先生が互いの顔を見て笑うその横で、半井が糸魚川に懇願するように言う。

「お前は知らなくていい、知らないままでいてくれ」
「……そういうことにしておきます」

 これ以上踏み込まない方がいい。いつになく表情が豊かな半井を見て、糸魚川は悟った。