ほまれがカップを置いて姿勢を正すと、ずっと立ちっぱなしだった半井が近くの椅子に座った。

「聞きたいって何をです?」
「ペンダントだよ。直ったかなって」
「ああ、それならここに」

 促されるまま糸魚川がジャケットの内ポケットからペンダントを取り出す。新しい留め具に付け替えられたロケット部分には、コンクリートで引っ掻いた跡がうっすらと残っていた。

「身に着けないのか?」
「トラウマなんで。……もう、二度と失くすわけにはいかないんです」

 糸魚川は新しい留め具をそっとなぞる。
 手元に戻ってきたその日の夜、慣れないペンチで直そうと一人奮闘していると、風呂が空いたと呼びに来た明夫に見つかった。見ただけで把握した明夫は馴染んだ工具箱を持ってくると、手際良く直してくれたのだ。過去に知代へお手製のネックレスをプレゼントした際に残っていた留め具に付け替える際、「新しいものの方がよければ買いに行くか?」と提案されたが、「これがいいんです」と言って断った。

 人は紡いでは切り離し、また新しい人を紡ぐ。――頭によぎったほまれの言葉に、糸魚川は思わず口元を緩めた。

「これは家族が繋いでくれたものですから」

 ふっと笑う糸魚川に、ほまれは満足そうに頷いた。初めて会った時から、ほまれは笑っている彼を見たことがなかった。「探し方を助言する」とふざけた相談にここまで親身になったのも、彼の笑う顔を見たかったからかもしれない。