――三日後の放課後、校内放送で呼び出された糸魚川は、また生徒会室に訪れた。

 ノック一つであんなに緊張していたのが懐かしいと思いながらドアを開くと、室内ではソファーでくつろぐほまれと養護教諭の古町先生が、半井の淹れた紅茶を片手に談笑していた。

「やぁトイくん。元気だった?」
「昨日も廊下で会ったじゃないですか」
「声をかけただけじゃないか。でも君は会釈したら行っちゃうから、先輩は寂しかったなー」

 拗ねた顔をしたほまれは、糸魚川に正面に前に座るよう促した。言われるがまま年季の入ったソファーに腰を下ろすと、目の前に淹れたての紅茶が置かれる。以前飲んだものよりも、ほんのり薄いオレンジの水色からふわりと桜の香りが漂う。

「少し季節外れだがたまにはいいだろう。苦手だったらいつもの紅茶に交換するから、遠慮なく言ってくれ」
「ありがとうございます。桜なんて珍しいですね。古町先生がいらっしゃるからですか?」

 カップを揺らす先生を見て尋ねる。

 糸魚川が事務室に尋ねていたことを調べ上げ、三日前の騒ぎに巻き込まれた松田先生が生徒に腕を引かれて出ていくのをほまれに伝えていたのは古町先生だった。生徒が得るには難しい情報も、彼女なら簡単に手に入ると考えれば納得もできる。

「あら。鋭いわね、トイくん」
「……先生もその呼び方、やめてくれません?」
「いいじゃない。可愛らしくて」

 フフッと微笑む先生を前に、糸井川は大きな溜息をついた。ほまれが呼び始めた愛称は、すでに校内まで広まっており、彼が教室を出るときもクラスメイトに「お呼びがかかったね、トイくん!」「半井先輩のサインを貰えたらもらってきて、お願いトイくん!」と――半井のサインに関しては本気だったかもしれないが――茶化されたばかりだった。

「それで、今日は何の用ですか?」
「そうそう! 君の話を聞きたかったんだ」