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「轟木先輩が、そんなことを……?」

 驚いた様子の糸魚川に、半井はぬかるんだ足場を踏んで固めながら続ける。

「アイツの家も訳アリでさ、境遇は違うにせよ、無意識に重ねちまったんだろうな。でもそれだけじゃない。大切な家族を引き裂いた原因が高校での生活に関係するとなれば、学校生活を応援するモットーを掲げた生徒会の失態だ。だから俺たちは活動の一つとして、敷地内の落とし物チェックとしてこの近辺を探す。見つけたら保健室に届けるさ。それなら私情なんてどうでもいいだろ」

 ヘラっと悪い笑みを浮かべて半井はそのまま作業に戻る。二人が手を止めずに探すその後ろ姿を、糸魚川は茫然と見つめていた。

「……なんですか、それ」

 生徒会がしていることはただのお人好しに過ぎない。そう割り切ればいいはずなのに、ほまれの言葉が頭から離れない。

『今までも、これから先も支えてくれる大切な存在が家族だから』

 糸魚川は海田家が好きだ。
 古臭い家でも、笑って自分を迎え入れてくれた二人が好きだ。

 だからこそ、二人の本当の息子になりたかった。生みの親を忘れて、海田として生きていくことを決めたはずだった。
 しかし二人は自分だけでなく、亡くなった両親のことまでを考えて糸魚川の名前を残してくれた。名字は違えど息子同然だと言われた時に安堵したのは、息子であることを認めてくれただけでなく、自分が生みの親を忘れないようにしていてくれたことがわかったからだ。

 子は親を選べない。それは逆も然り。――ならば、お互いが歩み寄るしかないじゃないか。

「――轟木先輩」

 糸魚川はジャケットを脱ぎながら近付くと、彼女に押し付けた。

「ん? なぁに?」
「スカートの中が見えます。これを腰に巻いてください」
「そっ、そんなことしたら新品の制服が汚れちゃうでしょ! それに私は短パン穿いてるし……」
「ダメです。僕のジャケットを汚したくなかったら、地面じゃなくて立ったままでも探せる場所にしてください。……お願いします」

 半ば強引にほまれにジャケットを渡すと、糸魚川は彼女がしていたように、地面に這いつくばって焼却炉の近くを注意深く探し始めた。湿った土の匂いに混じって、煤の匂いが鼻につく。焼却炉に手をかけるだけで真っ黒な煤が服やむき出しになった腕についた。それでもお構いなしに目を皿のようにして注意深く探していく。
 それを見てほまれは満足そうに笑うと、ジャケットを腰に巻いて焼却炉のすぐ近くに置かれたレンガをひとつずつずらしながら探し始めた。

 比較的涼しいとされる校舎裏とはいえ、湿気で蒸し暑くなっている中、長時間の捜索は熱中症を引き起こしかねない。すでに三人の頬に汗が伝っていた。

 捜索を始めて一時間が経過した頃、あまりの暑さに積まれた土嚢をほとんど動かし調べ終えた半井が顔を上げた。焼却炉付近を探す二人は手を休めることなく続けている。一度休憩すべきだと思ったが、あまりにも二人の真剣な表情を見るかぎり、おそらくどちらも応じないだろう。せめて熱中症になる前に水分補給をさせたいところだ。

「二人とも、一度休憩を――」

「――あった!」