縋りつく垣田を前に、松田先生は続ける。

「表札は郵便物が確実に行われるようにするためのもので、義務じゃないんだよ。最近は個人情報が流れるのを危惧してつけないところもある。女性世帯だと知って乗りこまれ、犯罪に発展したら大変だろう。糸魚川の家庭については入学前から話を聞いている。家出はしていないと断言していい」
「そんな……っ」
「これまでの話を聞いている限り、お前が一方的に糸魚川に暴言を吐いているだけとしか思えないんだが……どういうことか説明してくれないか?」
「……オイ、これ見ろ」

 松田先生と垣田が話している間、半井が机からはみ出ていたチェーンに手をかけて引っ張ると、机に隠れていた先には何もなかった。

「チェーン……だけ?」
「これしかないってことは……お前、まさかロケットだけ別で隠したのか!」
「……ははっ!」

 思わぬ事態に焦っていると、垣田が狂ったように嗤い出した。

「バカかよ! 誰もそれが糸魚川のモンだって言ってねぇし! 俺が盗んだ証拠ねぇし!」
「垣田、往生際が悪いぞ!」
「何が? アンタらだってペンダントがどんな形してるか知らねぇんだろ? これで糸魚川が嘘ついている可能性が出て――」

「それはないよ」

 狂ったように嗤う垣田の声を、いとも簡単にバッサリと遮ったのはほまれだった。

「君が言ってたじゃないか。『中に家族の写真が入っていた』って。トイくんがペンダントをつけていたことは今日まで大半の生徒が知らなかったはずだ。彼の性格上、見せびらかすようなこともしなかっただろうね。つまり、中に写真を入れられる構造と知っていて、なおかつ家族写真だと断言できるのは、現物を手に取って見たことがある人にしかわからない事実なんだよ」

 垣田はその場に崩れるように座り込んだ。真っ青な顔には恐怖の色が浮かんでおり、ほまれが一歩、一歩と歩み寄るたびに怯え、震え上がった。

「ペンダントがどこにあるのか、教えてくれるかな」