昨日の放課後で調べられなかった場所を探そうと、糸魚川は朝早く登校した。
 いつもと変わらない教室には彼以外誰もいない。自分の席に着いて鞄を置くと、斜め前にある机の引き出しから、白い紐のようなものが小さく揺れているに気付いた。

 いや、紐じゃない。光の反射で白く見えたが、近寄ってみればくすんだシルバーのチェーンだった。留め具は壊れており、左右の長さがちぐはぐの状態ではみ出ている。

 ――この先に、写真が入ったロケットがあるかもしれない。

 そのことしか頭に浮かばなかった糸魚川は無意識に手を伸ばしていた。チェーンを掴んだその瞬間、教室の入口がガラリと開いた音がした途端、我に返った。
 どうして斜め前に座るクラスメイトをすぐに思い出せなかったのだろう。教室に入ってきた垣田の取り巻きたちが、嬉しそうな笑みを浮かべて叫んだ。

「泥棒だー!」

 声を上げた彼らが糸魚川を取り押さえるのと、生徒に引っ張られるようにして生徒指導の(まつ)()先生が教室に入ってきたのはほぼ同時だった。驚いて手を離したチェーンがロケットのものだったのか確認できないまま、両側から押さえつけられた糸魚川を前に、先生は酷く驚いた顔をした。