「それにしても、なぜ垣田はペンダントに目をつけたんだ? アクセサリーを身に着けることは別に校則に違反していないだろ」
しばらく続いた沈黙を破ったのは半井だった。
入学当初に配られた生徒会手帳には、制服を大きく乱さなければ良いといった記載がある。覚えている生徒は少ないだろうが、それでも大半の生徒が無意識のうちに守っていた。もちろん、垣田自身もピアスや学校が指定していないポロシャツを着用しているが、注意された記録はない。
糸魚川が小さく溜息をついて言う。
「男がロケットを肌身離さず持ち歩いているのが、気持ち悪かったんでしょう」
「ロケットって?」
「写真を入れられるペンダントのことを、ロケットペンダントというんです。僕はその中に写真を入れていました。垣田はそれを見たんです」
「見ただけで?」
「まぁ、家族写真でしたからね。マザコンだの気持ち悪いだの言われましたけど、反論せず黙っていたのが余計に気に食わなかったんでしょう。それから僕の家族のことを調べた取り巻きの奴がいて、表札に書かれた名字が違う家に住んでいるから家出してると勝手に決めつけて――」
「糸魚川、もういい」
半井が言葉を被せるようにして止める。糸魚川がこの先話すのは、彼の家庭内事情であることを悟ってしまった。しかし、糸魚川は静かに首を振った。
「問題ありません。これに限っては僕も割り切っています」
半井の戸惑う表情を見て、少し申し訳なく思いながら糸魚川は続けた。
「表札が違う家に住んでいるのは、僕がその家の子ではないからです。本当の両親は、僕が五歳の時に火事で亡くなりました」