*

 一ヵ月前――入学式とガイダンスを終えてようやく授業が始まった頃、垣田を中心としたグループに目をつけられたのが始まりだった。

 当初から頭角を現していた垣田は、教室の端で息をひっそりとひそめていた糸魚川だけが無関心だったのが気に食わなかったらしい。横切る度に陰口を叩き、糸魚川をクラスから孤立させようとしていたのだ。それでも暴力に発展することはなかったため、彼は耐えることを選び、なるべく聞こえないフリを続けることにした。

 ペンダントを隠されたのはその直後だった。元々留め具が緩かったのは本当で、教室から理科室までの道のりで垣田に突き飛ばされて外れてしまった。それを見つけた垣田が「これを校内に隠す。もしお前が見つけたら、二度と関わらない」と遊び感覚で提案してきたのだ。糸魚川は反対したが、垣田もその取り巻きたちも聞く耳を持たず、強制的にペンダントを探し回る日々が始まった。あろうことか、祝日の連休と重なって手間取り、気付けば一ヵ月も経過していたのだという。

 生徒会室に訪れたのは「探し方を教えてほしい」とくだらない相談をしにきた訳ではなく、ペンダントを隠されているかもしれないと思って探りにきただけだった。よく考えれば魔の巣窟と噂され、上級生が出入りする生徒会室に簡単に忍び込めるわけが無かったと、今になって後悔している。

「だから、最初から相談しに来たこと自体嘘だったんです。これが大事になるほどのことではないと思ったから言いませんでした。……騙していてすみませんでした」
 一通り説明して、糸魚川は頭を下げた。完全に個人の問題であったこともあり、生徒会が掲げているモットーには関係ないと思っていた。だから必要なことは話さなかったし、隠していたことについて今更謝るつもりはない。しかし、目的が相談ではなく生徒会室そのものだったことについては、騙していたことに代わりはなかった。