ほまれの一声で半井はドアに鍵をかけ、入口をカーテンで覆った。これで室内の声が外に漏れにくくなるという。糸魚川は促されてローテーブルを跨いだほまれの正面に座った。真正面に彼女を見据えた途端、糸魚川は怖気がした。初めて会ったときから笑みを絶やさなかった彼女からは考えられないような、真剣な顔つきに圧倒されていた。

「トイくん。まだ話していないことがあるよね?」
「……何のことですか。この間話した事がすべてで――」
「君が落とし物を事務室に確認しに行ったの、先週じゃなくて今月に入ってから(・・・・・・・・)だよね。もう月の後半に差し掛かるから、約一ヵ月前になるかな」
 ローテーブルに「落とし物確認届け」と書かれた一枚のリストを置いて、一ヵ月前の欄に書かれた糸魚川の名前を指さした。事務員の雑な対応だったとはいえ、記録だけはしっかり残していたようだ。

「言ってたよね、『窓口がバタバタしていた』って。新入生が入学する四月は生徒の対応だけじゃなくて、請求書の処理や新しい職員の手続きの締め切りが短い、一番忙しい時期なの。本当は保健室に届けられているって話も、最初から知っていたんじゃない? 君が一ヵ月前に事務室に聞きに行ったとき、保健室の古町先生は隣町の学校で行われた会議に出席していた。それに先週は会議もなければ、事務室もいつもより落ち着いた様子だったことは、双方に確認済みだよ」

「……そこまで調べて、僕が嘘をついていたことを追及してどうするんですか?」
「それだけじゃない。君、同じクラスの垣田弘武くんに絡まれていたんだって?」

 半ちゃんから聞いたの。とスマホを掲げる。連行する最中、半井がメッセージを送っていた相手はほまれだったらしい。

「彼はね、君が相談に来たその日の昼休みに上級生と喧嘩しているの。両成敗で終わらせたけど、垣田くんは納得していないようだったから気になっていたんだ。半ちゃんの言う通り、ペンダントを落としたのではなく隠されたとしたら、ううん、垣田くんが隠し持っているとしたら――」

「なかった」

「え?」

「垣田は持っていなかった(・・・・・・)! アイツはジャケットのポケット裏まで僕に見せつけてきて――っ!」

 糸魚川は我に返った。口走った自分の言葉が頭の中で反響するほどに、自分は焦っていたことに。たとえほまれが言葉巧みに誘導したとしても、すでに冷静でいられるほどの精神力がなかったことを考えれば、糸魚川は自分を高く評価しすぎていたのだろう。途端に青ざめた彼にほまれがそっと寄り添うと、じっと目を見て優しく尋ねる。

「何があったか、教えてくれる?」

 これ以上、隠し通せない。――糸魚川は諦めたように目を瞑った。