教室のドアが大きな音を立てて開かれると同時に、怪訝そうな顔をした半井が入ってきた。いつになく低い声と鋭い瞳が向けられ、驚いた垣田は後ずさった。いつの間にか糸魚川の頭を掴んでいた手は空中で行き場を失くしている。

「空き教室とはいえ私物化していい訳じゃない。使うなら申請を出せ。放課後、五分間のみ私用での貸出も検討してやってもいい。まぁ、多分無駄だけどな」
「し、私物化なんてそんな! ただちょっとコイツと話を――」
「へぇ……人の頭を掴んでゲスな言葉を吐くほど、正当な理由があるからやってんだよな?」
「は……っ!?」

 半井は垣田の前に立つと、じっと見つめて言う。

「困ったことがあったら直々に生徒会が話聞いてやるよ。解決はてめぇでしろ」
「ヒィッ!」
「分かったらさっさと帰れ。寄り道すんなよ」

 垣田は半井を押しのけ、脇目も振らずに教室から飛び出した。先輩の気遣いの言葉など聞く余裕もないようで、遠くからいろんなものにぶつかる音と先生の怒号が聞こえてくる。
 糸魚川が呆然とドアを見ていると、頭上から「しまった」とやけに落ち込んだ声が聞こえた。

「やっちまった。また印象が悪くなった」
「……え? 今の、脅しじゃなかったんですか……?」
「人聞きが悪いな。俺はただ『人を殴るほど困っていることがあるなら話くらいは聞いてやる』って言ったつもりだったんだが……どうやら恐怖を植え付けちまったらしい。俺の悪い癖なんだ」

 癖というか、言い方や表情の問題なのでは? ――などと思っても、目に見えて落ちこんでいる半井に追い打ちをかけるだけだ。糸魚川はこのことについては黙っていることにした。

「とりあえずお前に怪我がなければいい。生徒会室に行くぞ」
「……なんで生徒会室?」

 確かに気が抜けてふらついたとはいえ、なぜこの空き教室から遠い生徒会室へ行く理由があるのだうか。糸魚川が首を傾げると、半井は彼の腕をがっしり掴んで言った。

「悪いな。さっきの話は聞かせてもらった。ペンダントを落としたのではなく、誰かによって隠されたのなら話は別だ。全部話してもらうぞ」

 生徒会長だけでなく、副会長までも超能力者かよ。

 いつの間にかしっかり拘束された腕を見て、糸魚川は溜息をついた。