不貞腐れた顔をすると、半井は無表情ながらも鼻で嗤う。これ以上はぐらかしても無駄だと思った糸魚川は渋々頷いた。
「事務室で預かったものも保健室に集めて管理しているみたいですけど、どちらにもありませんでした。あの後帰って家の中を探してみましたが、やっぱり見つからなくて」
「通学路はどうだ? チェーンの留め具が緩かったって言ってたよな。もしかしたら歩いている最中に落とした可能性も……」
「いえ、それはありえません」
「ありえない? どうして断言できる?」
「無いことに気付いたのが、化学の授業が終わって理科室から教室へ戻る途中だったからです。それまで手元にあった――通学路で落とすわけがないんです」
「……最初から一通り探していたのか」
「疑えるところは全部、しらみつぶしに探しました」
「じゃあどうして生徒会室に探し方を聞きに来た? ほまれがお前に助言した場所は、すでに確認済みだったんだろ?」
確かに糸魚川の相談は、生徒会にとってイレギュラーな内容だっただろう。それでも彼の相談は助言を聞けただけ良かったのだ。これ以上お互いにメリットはないにも関わらず、半井は疑い深く糸魚川を見据える。
「別に……噂通りの変わり者なら、突飛な解決法があるかもしれないと思っただけですよ」
「本当にそれだけか?」
それだけって? ――と聞き返そうとすると、授業開始のチャイムでかき消されてしまった。半井は諦めたのか、小さく溜息をついた。
「いい、またな」
そう言って半井は彼の横を抜けて歩いて行った。向こうからやってくる先生も颯爽と歩く半井を見ては頬を赤らめている。人気者は大変だなと改めて思っていると、先生と目があい、途端に鬼の形相に変わった。促されて教室に入ると、クラスメイトの女子数名から厳しい視線を向けられていた。それほど半井とお近づきになりたかったらしい。
授業が始まって淡々と板書が続く中で、糸魚川は先程の半井の話を思い出していた。
まるで相談しに行った理由を探しているかのようで気味が悪い。自分はとんでもない人と関わってしまったのではないかと冷や汗が伝う。
「糸魚川くん、ちゃんと書いてる?」
「……書いてます」
「これのどこが?」
何が書いてあるかわからないミミズ文字が並んだノートを先生が覗き込んでくる。パーソナルスペースは守ってほしいと、糸魚川は小さく悪態をついた。