それから俺は横溝を社長室に呼んだ。

「久しぶり、元気そうで良かった、専務から活躍をいつも聞かされている、助かるよ」

「いいえ、あのう、社長、日本に戻って来ていたんですね、しばらくは日本にいらっしゃる予定ですか」

「拠点を日本にしようと決めた」

「ずっと日本にいらっしゃるんですか」

この時、横溝はまだ俺への気持ちを諦められずにいた。

たとえ、振り向いて貰えなくても構わないと決心していた。

同じ日本に居られる喜びに胸を膨らませていた。

でも、俺の言葉で横溝は、一気に谷底に突き落とされた気がしたなど思いもよらなかった。

「横溝、俺と入れ替わりにアメリカ支社に行ってくれないか」

「えっ」

「アメリカ支社を任せられるのはお前しかいない」

仕事をバリバリ熟すキャリアウーマンなら、これほどの言葉は嬉しく、やりがいがあると思うだろう。

ところが横溝にしてみれば、アメリカに追いやられる気持ちになったのだ。

「少し考える時間をください」