目の前に、セーラー服を着た少女と、ブレザーの制服を着た少女がいる。手が届きそうで、届かない。
私は、泣いているのか。輪郭が揺れ、ぼやけて来た。
彼女たちは、離れていかない代わりに、近づいても来ない。決して触れられない、私の腕よりも少し長いくらいの、一定の距離を保っている。


どうして、触れられないの。


私が迷っているから?
その通りだ。
正直、どちらに触れたら良いか、わからない。


右に行って、右手を伸ばして、グレーの上着に憧れの赤いネクタイを締めている少女の手を取ろうか。


左に行って、左手を伸ばして。中学と同じようなセーラー服を着ている少女の手を取ろうか。セーラー服の少女は、胸元に青いリボンが結ばれていて、大人っぽく見える。


自分は、どうなりたいのだろう。


私は悩んで、選べなくて、彼女らと河川敷へ向かった。
夕暮れの河川敷。堤防に腰掛けて、夕日を眺める。私の両隣に、少女たちは距離を保ったまま、私と同じように腰掛けた。


私は今日の出来事を思い出した。
父になんと言われたっけ。
母になんと言われたっけ。
友達は、なんと言っていた?
中学の先生は?
誰を、信じれば良い?
正直、何も聞きたくない。
けれど、行く先は一つで、逃げ場所はどこにもない。


視野を狭く持ってはいけないよ。
小学校の頃の、たまに廊下で会うとお喋りしてくれた校長先生の言葉をふと思い出した。
今の今まで忘れていたのに。


高校受験。進路選択の時。急にたくさんの情報を言い渡されて私は混乱していた。
もう、嫌だ。
なんだかもう、全てが悔しくて。自分の無力さが不甲斐なくて。けれどそれを、誰にも見せられないし、誰にも話せない。
そんな自分の弱さをわざわざ見せるような真似できるわけがなかった。けれど、かといってどうしたら良いのかわからなかった。
誰もいない河川敷で、誰にも見られず私は涙を流し、いつしか眠ってしまっていた。


目を覚ますと、白い霧の中を、私は歩いていた。
お先真っ暗、ならぬ霧で真っ白。何も見えないことに変わりはないが、明るいことだけが救いだった。
振り返ると、さっきの少女二人が歩いていた。
これは夢だ、となぜだか私は理解した。
初めて前から見た二人の少女の顔が、靄がかかって見えなかったからかもしれない。
そして、急に心が穏やかになった。彼女たちは私の後ろにいる。