「あ……、まんまと騙されましたね」

 俺は三原さんと福山さんを最後まで見届けることなく、()()()()()()()へ向かった。
 神社はホテルの最寄り駅から、電車で乗り換えなしで十数分程度だった。
 この辺り、やはり作為的なものを感じてしまう。
 全ては彼女の思惑通り、と思えば甚だ遺憾である。

 だが、これは彼女が誠意を見せてくれた証だ。
 であれば、彼女へある種の試練を吹っ掛けた身として、その()()()()()()に対して、自分なりの答えを出すのが筋であろう。
 メイン行事が済めば、もはや京都に用はない。
 不可思議な縁で始まったこの弾丸日帰り旅行を切り上げ、()()()()()()()()()へ急いだ。

 思えば、全てはこの場所から始まった。
 いや。正確に言えば少し違う。
 まだ終わっていないところで、また新しく始まってしまったのだ。
 同時進行など彼女たちに対して誠意がないし、何よりそれに耐え得る器量など端から持ち合わせていない。
 だからこそ、今一度整理する必要がある。
 これまでのことを。これからのことを。
 
 さて、当の彼女はそんな俺の心境など知る由もないのだろう。
 この()()()()()()()()()で、いつものビジネススーツに身を包み、満足そうに微笑む姿を見れば、そんなことは一目瞭然だ。
 既に日は傾き、夕刻を迎えている。
 赤く焼けた空からは、()()()を彷彿とさせる落日の光が、彼女の顔を照らしている。
 そこには()()()感じた、物悲しさのようなものはなかった。
 
「……楽しそうだな」

 俺がそう言うと、彼女は一層その顔を綻ばせる。

「あの時()()()、羽島さんに声をかけて本当に良かった……」

 都心からやや離れた閑静な住宅街にある、俺のアパートの最寄り駅。
 俺と豊橋さんはこの場所で出会った。
 田舎というわけではないが、どちらかと言うとベッドタウン的な立ち位置なので、さしてランドマークと言えるほどの大層なものもない。
 だが、社会人になってからというもの、ずっとこの街で過ごしてきたこともあって、それなりに愛着もある。
 そんな腐れ縁とも言えるこの街で、ある日彼女はひょっこりと俺の前に現れたのだ。
 
 かつて浜松朔良がこの場所で言った()()()、『一度終わったとしても、この場所でならまた始められる気がするから』。
 その言葉通り、豊橋さんはこの場所を選んだのだ。
 俺の中から強引に浜松の存在を押し退け、自分こそがパートナーだと主張するかのように。
 もはや豊橋さんにとって、浜松すらも役者の一人なのだろう。
 そう言わんばかりの、いつにない得意げな表情を見れば、彼女なりに手応えを感じているであろうことは想像に難くない。

 だからこそ、()()()()()()()()として彼女のその鼻をへし折ってやることにしよう。

「……まぁ、そう結論を急ぐなよ。コッチにはいくつか確認事項がある」

 俺がそう言うと、彼女はゆっくりと頷いた。

「こんなこと、本人に聞いていいのか分からんが、豊橋さんの過去についてだ」

「過去……、ですか?」

 俺の問いかけに対して、豊橋さんは露骨に不安の色を見せる。
 こういうところは、実にいつもの彼女らしい。

「具体的には、学生時代のことだな。詐欺に引っ掛かるよりもっと前の話だ。中学・高校はどんな風に過ごしていた?」

「そんなこと……、聞いてどうするんですか?」

 俺はこれまで『マニュアル作りを通じて成長する』などと詭弁にも近い煽り文句で、彼女をその気にさせてきた。
 俺の思惑通り、彼女自身多少の変化を見せてきた。
 とは言え、それは本質的な変化ではない。
 いや。そもそも変化とも言えないだろう。
 三島が言っていたように、元々彼女の中にあった()()()()()()()()()()()()()()という部分が一時的に表層化したに過ぎない。
 
 別に今更変わらないこと、変われないことが悪いとは思っちゃいない。
 奇しくも、豊橋さん本人にも言われた。
 人は簡単には変われない、と。
 だがもし何か不本意なカタチで、トラウマのようなものが植え付けられたのだとしたら、それはいつまでも燻り続け、一歩踏み出すことすら困難になる。
 そう。俺のように。

「……まぁ言ってみりゃコレは、実技試験の後の最終面接だと思ってくれればいい。最終的な意志確認も含めて、ざっくばらんに話そうぜ」

 学生時代、就職活動で吐き気がするほど聞いたお馴染みの常套句を、何の因果か彼女に投げかける。
 案の定、彼女は一瞬渋い表情をする。
 だがそれでも、次の瞬間には再び笑顔を見せた。

「分かりました。そうですね。何から話せばいいのやら……」

 そう言うと彼女は少しずつ、言葉を溢し始めた。