そんな矢先、足首の骨折で運ばれて来た患者がいた。

鶴巻梨花 三十九歳だ。

骨折して歩けないのにその患者は大丈夫と診察を拒否した。

「私、自力で治しますから治療はしないでください」

そう言って、緊急処置室のベッドから立ち上がろうとした。

「痛い」

「当たり前だ、骨が折れてるのに立ち上がれるわけがないだろう」

「大丈夫です」

俺はその患者の言葉を無視して、診察を始めた。

「CT検査室に運んで」

その女の抵抗も虚しく、CT検査室に運んだ。

「家族の連絡先を教えろ」

「私は一人暮らしなので家族はいません」

「そうか、じゃあ、お前に話する、しっかり聞けよ」

何、この先生、お前とか、聞けよとか、なんで命令口調なの。

「骨折してるから、入院して手術だな」

「私は自然治癒で治します、骨は勝手にくっつくし……」

「はあ?何言ってるんだ、歩けなくなるぞ、それでもいいのか」

「だって……」

私は実はお金がない、日々の生活を送るのにギリギリの収入しかないのである。