千明の反応など構わず、伯母は話し始める。


 「千明のご主人様なんだけど──、実はもう決まってるのよ! もうすぐ、ここに来るから紹介するわね」


 もう決まってるんだぁ……。どうせ誰かの奴隷になるしかないなら、優しい人であってほしいよ。


 千明は泣きそうな顔で、ただ黙っている。


 その時──、


 コンッコンッと扉をノックする音が聞こえた。


 「どうぞ〜」


 伯母が席から立ち上がり、明るい声で言う。


 「失礼します」


 そう言って入ってきたのは──、


 とんでもないイケメンだった。 


 身長は180cmぐらいあるだろうか? 細身で、髪は薄茶色、ふんわりと柔らかそうな髪質。だけど、目はキリッとしていて鼻筋がスッと延びている。色は白くて、手の指なんか細くてゴツゴツとした男らしい感じがない。


 負けて悔しいなんて全く思いもしないぐらい、別次元の美しさとカッコよさを兼ね備えている。


 千明は、部屋に入ってきたその青年から目が離せなくなっていた。


 「来てくれてありがとう! じゃあ紹介するわね。こっちの小動物みたいな可愛い女の子が、私の自慢の姪よ! そして、こっちのイケメンが、佐田理人(さたりひと)くん。理人くんは、こ〜んなにカッコいいのに、頭もすっごくいいのよ。漫画に出てくる王子様みたいでしょ! 学園中の女の子が理人くんのファンなんだから‼︎」


 と言いながら、千明と彼の間に伯母が立つ。


 「アハハ! 理事長、それはオーバーですよ」


 理人が爽やかな笑顔を見せ、伯母の発言を言い消した。


 千明の目には、彼から神々しい光が放たれているように見えた。そして、ふとあることに気がついた。


 あれっ? そういえば伯母さん、私を姪って紹介してたよね……⁉︎


 「理事長! 私との関係をこの人に教えて良いんですか?」


 千明は伯母の方を向き、ヒソヒソ話をするように問いかける。


 すると、


 「いいのよ! 理人くんはとっても信頼できるし、何よりイケメンに悪い子は居ないもの〜」


 と、伯母が笑いながら言う。


 どういう根拠をもとに、そんなこと言ってんだこの人! 


 伯母と千明がコソコソ話しているのを、理人はジーッと見つめる。


 その熱い視線に気がついた千明。


 えっ、何? 私の顔に何か着いてるかな⁇ こんなイケメンに見つめられた経験ないから、どうしたら良いか分からないよ……。


 千明が焦っているのを知ってか知らずか、理人は、彼女に優しく微笑む。


 「これから、よろしくお願いします」


 「よっ、よろしくお願いします」


 つい数分まで、恋人を望んでいなかった千明の心の真ん中には、既に理人がいた。ただ挨拶をかわすだけなのに、彼女の脈は速くなり、周りの雑音が聞こえなくなる。息することさえも忘れてしまうほど、彼に魅了される。


 こんな感覚、初めてだ。そうか……、これが恋なんだろうな、きっと。


 冬眠から目覚め、ポカポカと暖かい春の光に包み込まれた時のような表情を見せる千明。


 そんな千明の表情を見て、伯母は微笑みながら話し出す。


「じゃあ主従関係の証として、ブレスレットの交換をしましょうか! 千明のは私が持ってるから、これを理人くんにあげて〜。理人くんのは、千明が身につけてね」


 伯母はそう言うと、ブレスレットを2人の手首につけた。それは黒の皮っぽい生地で、一部にシルバーのプレートがついたブレスレットだ。


 このブレスレット、よく見るとプレートには筆記体で名前が彫られているんだ。冷静に考えると……、これ首輪みたいじゃん!


 ブレスレットを凝視する千明を見て、伯母が言う。


 「首輪みたいでしょ! だって、それをイメージして作らせたんですもの〜」


 千明は、ハッと伯母の顔見た。


 ビックリした! 私の気持ちを、伯母が察知したのかと思った。首輪をイメージしたって……、趣味悪すぎでしょ。でも、そのお陰でこんなイケメンとペアルックになれた。ありがたい。


 「じゃあ、後は理人くんに任せる! 千明をよろしくねぇ〜」


 伯母が理人に笑顔で言う。


 そして理人が


 「お任せください! では、僕らはこれで失礼します」


 と言い、千明の手を優しく握って部屋を出た。



 ──理事長室に残された石崎が口を開く。


 「これで良かったのでしょうか?」


 理事長は、ゆっくり椅子に腰かけ、大きな窓から外を眺めて言う。


 「これで良かったのよ。あの2人、ぶつかることも多そうだけど、きっと上手くいくわ! 私の勘、結構当たるんだから」


 と優しい表情で呟いた。


 「そうですね」


 石崎もまた、理事長と同じ方向を眺めながら優しい声で同意するのだった。