──とうとう新しい学校に到着した。


 「うわぁ……思っていた以上に立派な学校」


 想像より豪華な造りの校門や校舎を目の当たりにした千明は、思わず呟いた。


 こんな所に私が通うの? 学費とか大丈夫なのかな……?


 つい、現実的なことを考えてしまう千明。


 すると、スーツを着た細身の男性が、千明に近づいてきた。


 年齢は50代ぐらいかな? 黒髪の短髪で、スッキリしてる。眼鏡をかけ、スーツを着こなし、いかにも仕事が出来そうな雰囲気の人だなぁ。


 千明がそんなことを考えていると、男性が彼女の前で立ち止まった。そして、微笑みを見せながら話し始める。


 「お待ちしておりました、橘様。私は、本日ご案内を担当します、石崎と申します。よろしくお願いいたします」


 すごいきっちりした人だ。こんなすごい学校で働いるだけのことはあるなぁ。


 千明は、その男性の丁寧な応対に感心した。


 「よろしくお願いします! それにしても、立派な校舎ですね。私が、以前通っていた学校とは全然違うので、驚いています」


 千明が校舎を見渡しながら、そう言うと


 「ありがとうございます。当学園は、名家の御子息、御息女が大勢通っておられます。そのため、相応な造りとなっております。──それでは早速、園内をご案内しますのでこちらへどうぞ」


 そう言われ、石崎の後ろに続いて歩き始めた千明。


 校舎の綺麗さもさることながら、廊下のあちこちには高価そうな置物や絵画が飾られている。千明は、キョロキョロ辺りを見回しながら歩く。そして、ハッと、あることに気がついた──。


 「あっ! この曲、どこかで聴いたことある」


 思わず声を出してしまい、慌てて両手で口を抑える。


 それを見た石崎がクスッと笑う。


 「こちらでは、生徒の皆様がゆったりした気持ちで過ごせるよう、休息時間にはクラシック音楽を流しております。お気に召していただけましたか?」


 すかさず千明が笑顔で答える。


 「はい! とっても素敵ですね! 私までお嬢様になった気分です」


 校舎内の雰囲気に、魅了される千明。


 それから、併設されているカフェ、お洒落な噴水がある中庭、離れにある花園や教会などを案内された。


 園内のどこをとっても、その素晴らしさに圧倒される千明。そして、自分の来る所ではないと改めて感じた。


 「あっ、あの……、石崎さん。こんなことを石崎さんに言ってもしょうがないんですが──。私は、こんなすごい学校に通えるほど、お金持ちじゃないんですけど」


 石崎は千明を見て、ニッコリ微笑む。


 「心配には及びませんよ。橘様は、学費を含め、こちらでかかる費用は免除されます。なので、ご安心ください」


 「えっ! そうなんですか⁉︎」


 「はい。お母様から学園について、お話はありませんでしたか?」


 「いえ、何も……」


 困惑する千明に対して、石崎が優しく説明する。


 「こちらの学園では、主人となる者が、使用人となる者の学費やその他諸々の支払いを行うこととなっております。橘様は、先日の試験にて使用人に分類されました。そのため金銭面の心配は無用なのですよ」


 「はぁ……」


 当然のように「主人」とか「使用人」とか言ってるけど……、今の時代にそんなのある? そして先日の試験って……。 


 ──あっ! 


 この前、自宅で母に「実力テストで〜す!」と言われ、遊び半分でやったあれかな? 驚くほど出来なかったやつだ!


 何か思い出したような顔をする千明を見て、石崎が言う。


 「頭の整理ができてきたようですね。それでは、理事長がお待ちですので、そろそろ向かいましょうか」


 石崎は、千明を理事長室に案内した。