──そして、カフェに着いた2人。千明は、綾音が不在にしていた10日間の出来事を全て話した。
「そういうことか。そんな辛い時にそばに居られなくて、ごめんね」
「いやいや、綾音ちゃんは何も悪くないから! あいつ、美女が隣にいて幸せそうだったし。なんかもう、私のことなんて見えてない、みたいな感じで……」
そう言って、うつむく千明に綾音が言う。
「ふ〜ん、千明ちゃんにはそう見えたんだ。私にはどう見ても、りっくんが無理してるようにしか見えなかったけどなぁ。りっくんってね、何か伝えたいことがある時に限って無反応になるの。人付き合いとか器用そう見えるけど、本当は不器用な人なのよ。大事なものを失くしてからじゃ、遅いのにね」
綾音の言葉が千明の胸に響いた。
私がブレスレットを返そうとした時、無反応だった。あの時、本当は何を思ってたんだろう……? 綾音ちゃんが言うように、あいつが無理してるとしたら、それは私が離れたせい? もしそうだとしたら……、嬉しいって思っちゃうのは、いけないことかな?
考え込む千明を見て綾音が続ける。
「でも、よりによって新しいご主人様が、あっくんとは……。手強いわね」
「どういうこと? 綾音ちゃんは暁人くんのこと知ってるの?」
千明は不思議そうに綾音を見る。
綾音は驚いた顔をして、逆に千明に聞き返す。
「りっくんから何も聞いてないの?」
千明は、首を横に振り、泣きつくように綾音の肩を揺すって聞く。
「何も聞いてない。えっ、何なの? すごい気になるから教えて」
「それは、りっくんから聞いた方がいい! 千明ちゃんとりっくんの関係は、まだ終わってない。いや! むしろ始まってすらいないよ」
なんだか全然分かっていない千明とは対照的に、これからのことを予見しているかのような言いぶりの綾音。そして、綾音はニコニコしながら言う。
「大丈夫! 2人はきっとうまくいくから、私に任せて!」
そこへ、カフェの店員がやってきた。それは以前、千明が話したあの女性店員だった。
「千明ちゃ〜ん、理人くんの奴隷やめちゃったんだって? お似合いだと思ってたのに、もったいない!」
店員が明るく言う。綾音も大きく頷く。千明は「お似合い」と言われて少し照れくさくなった。それと同時に、理人から離れたことを後悔し、泣きそうな顔になる。
そんな千明を見て、店員が明るく言う。
「1つ、いいこと教えてあげる!」
そして、千明と綾音の間にしゃがみ込み、小声で続ける。
「昨日、理人くんがカフェに来てねぇ、珍しくため息ついてたのよ。だから『理人くんでも、好きな子に振られることがあるのかい⁉︎』なんて冗談半分で聞いたらさぁ──、『難しい問題は解っても、人の気持ちは分からないものですね。初めて、世の中のカップル達をすごいと思いました』だって! 私はそれを聞いた瞬間、これは千明ちゃんのことだって確信したよ」
店員が誇らしげに話し、綾音もその話を聞いて何かを確信した様子。そんな2人の様子を見て、千明は少しはにかむ。
そうして綾音は、千明と理人が2人でゆっくり話せるよう、作戦を立て始めたのだった。