──理人が1人、中庭のベンチに腰掛けていた。本を片手に持ち、退屈そうに晴れ渡る空を眺めている。


 そこに、千明と暁人が現れた。


 理人がゆっくり2人の方を向く。


 「──これ、返すから」


 千明はそう言うと、理人にブレスレットを突き出す。


 「……」


 何も言わずに、また空を見上げる理人。そんな彼を見て、少し慌てる千明。


 「ちょっと!」


 「……」


 それでも理人は反応しない。


 暁人が千明からブレスレットを受け取り、理人の隣にギュッと押し付けるようにして置いた。


 「そういうことだから、よろしくね。理人」


 ニコッと笑う暁人とは対照的に、苛立ちを募らせたような表情の理人。黙ったまま睨み合う2人。


 そんな2人を見て、ただならぬものを感じる千明。


 そして、暁人はクルッと向きを変え、嬉しそうに千明の手を握って歩き出す。


 「行こうか、千明ちゃん」


 「うん……」


 千明は悲しそうな表情で理人を見つめた。一瞬目が合ったが、すぐに理人が目を逸らす。千明は、何かを諦めたようにうつむき、暁人について行くのだった。


 そんな千明の背中を、校舎に隠れて見えなくなるまで見つめる理人。そして、返されたブレスレットをギュッと握り締めて言う。


 「バカ……」


 ──千明と暁人は、彼女の教室の前まで来た。


 「送ってくれてありがとう。授業に遅れちゃうから、暁人くんも、もう教室向かって」


 千明が微笑みながら暁人に言う。その表情からは活気が感じられない。しかし、暁人はそんなことに気付かず、満面の笑みで言う。


 「うん。じゃあ、また後で迎えに来るね!」


 そう言うと、暁人は軽い足取りで去って行った。


 ──その日の千明は、いつも以上に理人のことばかり考えていた。