──その後も数日、理人は休んでいた。理人が居ないことで、女子達の不安や苛立ちは募るばかり。それに伴って、千明へのイジメは酷くなっていった。無視や悪口は当たり前。廊下を歩けば睨みつけられ、わざと肩にぶつかってくる始末。
そして今も、また──。
それは遡ること10分ほど前、同じクラスの女子が「先生が呼んでたよ」と言うので、千明は準備室に向かった。だが、そこには誰もおらず、それどころか何者かに部屋に閉じ込められてしまった。
誰も居ない静かな準備室で、しゃがみ込んで悶々とする千明。
皆、性格悪すがじゃない? 私が何したって言うのさ。他人の言葉なんて、信じなきゃいいんだろうけど……、もしかしたら本当のこと言ってるのかも、って思っちゃうんだよね。どうやってここから出よう? こんな所、なかなか人来ないでしょ……。こんな時こそドラマや漫画なら、ご主人様が助けに来てハッピーエンドになるんじゃないのかい⁉︎ 肝心な時に居てくれないんだよなぁ。
──会いたいよ。
千明は声を殺して1人で泣いた。彼女もまた、他の女子同様に、理人が居ないことで寂しさを感じていた。
すると、ガチャガチャ──
誰かがドアを開けようとする音が聞こえた。千明は理人が来てくれたと思った。
ドアが開いた先に居たのは──
理人! ……じゃない。体型は理人と似ている。黒いサラサラの髪、前髪が目にかかるほど長いため、表情が暗く見える。目元は理人に似ているような気もするけど……、前髪でよく見えない。とりあえず、この人が来てくれて良かったぁ……。
「助かったぁ……。ありがとうございます」
千明が、泣きながら理人似の男子にお礼を言う。
「大丈夫ですか? 橘さん」
「えっ……、何で私の名前を知ってるんですか?」
会ったこともない男子が、自分の名前を知っていることに驚く千明。
「あの理人くんに選ばれた、たった1人の子だからね。もう、学園中で知らない人は居ないと思いますよ」
淡々と男子が言う。
「あぁ……、いつの間にかそんなに有名になっていたんですね。あの……、もし良ければ、お名前聞いてもいいですか?」
千明が男子の顔を見て尋ねると
「僕は、小林暁人。橘さんと同じ2年生です。よろしくお願いします」
そう言って彼は微笑んだ。その表情を見て千明は少しドキッとした。
今のドキッて何よ⁉︎ 理人に似てたからかな⁇
「小林くんね。こちらこそ、よろしくお願いします!」
千明が笑顔で言うと、暁人が俯いてボソッと呟いた。
「僕、自分の苗字嫌いなんだ……。だから橘さんには『暁人』って呼んでもらえると嬉しいな」
それを聞いた千明は、彼の言葉を素直に聞き入れた。
「苗字嫌いなんだ、ごめん。じゃあ暁人くんって呼ぶね! あっ、そろそろ教室戻らなきゃ。助けてくれて本当にありがとう! じゃあまた会おうね、暁人くん」
まだ転入して間もない千明。授業に遅れるわけにはいかない、と急いで教室へと向かう。
そして、部屋に1人残された暁人は──
「また会おう、橘さん」
そう呟き、不気味な笑みを見せる。準備室を後にする暁人の手には何故か千明の写真が……。