──そして翌日。あれから理人からの連絡が急に来なくなった。
急に連絡なくなったけど、どうしちゃったんだろう?まぁ、雑用の連絡しか来ないんだけどさ。
千明が廊下を歩いていると、女子2人組が千明の方に向かって歩いてきた。そして、すれ違いざまに話しかけてきたのだった。
「ねぇ、ちょっと! 今日は理人様、お休みなさってるけど、どうしたの?」
えっ、この人達、誰? 私に、あいつのこと聞かれても困るよ。あいつが休んでいること自体、初めて知ったし。
「えっ? そうなんですか⁇ 休んでることを今、初めて知りました」
女子達が呆れ顔で言う。
「あなた奴隷なのに、自分のご主人様のことを何も知らないのね。何で、あなたみたいな子が理人様の奴隷なのかしら?」
「本当、こんなに使えない奴隷なんて、理人様が可哀想だわ。学園に居る意味ないんじゃない?」
千明は少し苛立ちを感じたが、それ以上に女子達の鋭い刃のような言葉が胸に刺さり、悲しくなった。そして、何も言い返せなかった──。
あいつから何の連絡もないし、休んでいることさえ知らなかった。私なんて、あいつにとっては、どうでもいい存在なんだ……。
うつむいて黙ったままの千明。表情は悲しみに満ちていた。それを偶然見かけた綾音が、遠くから千明に声をかけて近づいてくる。女子達は綾音から逃げるように立ち去って行く。
「千明ちゃん! ……大丈夫? さっきの子達に何か言われたの?」
綾音の優しい声に、千明は思わず涙を流すのだった。
「私って、あいつにとって、居ても居なくても同じなのかな? 雑用の連絡は来るのに、休むとか、そういう大事な連絡はくれない……」
千明の声が震えていた。そんな弱っている千明を見て、心配そうな表情を見せる綾音。
すると綾音が、あることを話しだす。
「実はさっきね、りっくんに連絡したら『腹の調子が……』って返信が来たの。たぶん、りっくんのことだから恥ずかしくて、千明ちゃんに連絡できなかったんだと思うよ。だから、居ても居なくても同じなんて、絶対思ってないよ!」
それを聞いた千明は、ふと昨日のことを思い出した。
「あっ……。綾音ちゃん、実は──。」
綾音に昨日のことを話すと、
「なにそれ、おっかし〜! きっと千明ちゃんの念が、りっくんに伝わったんだ! すごいパワーだね」
と言って、彼女は大笑いした。
「りっくんに連絡してみたらどうかな⁉︎ 千明ちゃんには、休んでる理由を何て説明するのか、個人的にすごく気になる!」
綾音がそう提案すると、千明が理人の返信を予測し始める。
「そうだなぁ……『だるい』とかかな? あとは『めんどい』とかもあり得るなぁ」
「確かに、りっくん言いそう〜! あっ、もうすぐ授業が始まる時間だ。りっくんから返信きたら教えてね!」
綾音は、理人の反応が楽しみでしょうがない様子。そう言い残して、自分の教室に戻って行った。
──千明も教室に戻り、理人に連絡してみる。
「おはようございます。今日は学校を休んでるみたいだけど、大丈夫ですか? 体調でも悪いのかと、心配になって……」
これで、よし。なんて返ってくるかな? ──って私、あいつからの返信を何で楽しみにしてるんだ?
千明が困惑していると、理人からすぐに返信が来た。
「他人の心配してる暇があったら、勉強しろ」
うわ! 可愛くない。それに他人って……、なんか傷つくわ。
「言われなくたってやりますよ」
そう返信すると、スマホをバッグにしまって、授業に臨む千明であった。