チュン、とスズメが鳴いている声がした。
 学校を拒否する体を思い切り起こしながら、自分は……

『『名前を思い出せないでいた』』

 これは尋常じゃ、ない…よな…?
 親も友達も先生も分かった。けれど、自分の個人情報の時だけモヤがかかって思い出せない。
 何故、と問われてもわからない。
 なんもわからない、わからない、わからない。
 けれど、わからないものはしょうがない。
 割り切るしかないよな。
「ハツキ〜ごはんよ〜」
「は、は〜い!……いまいく〜!」
 ハツキ…それが自分の名前なのか。
 首をひねるがわからない。聞き覚えがないのだ。
 けれどご飯を食べないわけにはいかないだろ、ということで一階に降りる。
「はーちゃん遅かったねー」
 弟の千春だ。しかし、はーちゃんって…はーちゃんって…あだ名なのか…?
「どうしたの?ハツキ。どっか具合でも悪い?大丈夫?」
「え…あっと…うん。大丈夫。」
 本当は大惨事の真っ最中なんだがね。
 さすがにおかしくないか?
 なんで自分のことは思い出せるんだ?