化け狐さん、襲わないでください!

 すずちゃんと寮の敷地内にある公園に来ていた。
「里奈ちゃん、──……」
「あ、私のこと里奈でいいから、すずって呼んでいい?」
「うん!もちろん!」
 嬉しいな。久しぶりに友達と居られる。
「あ、ごめん。話さえぎっちゃったね」
「ううん!大丈夫。里奈に質問したいんだけど……」
「なに?」
「えっとね。プリンスって呼ばれてる人いるじゃん?」
 ここでもプリンスか。
「うん」
「里奈はプリンスのことどう思ってる?そんな、東堂君のことを悪く思ってるとかじゃなくてね!みんなは東堂君に夢中になってるけど、私、そんな興味なくって。私、変なのかなって……」
 すずも私と同じなのか。
「変じゃないと思うよ?だって私も同じだからね」
「え?」
「私も同じであんまり興味ないんだ。だけど、悪い人ってことでもないから、普通に接してるよ。でも、クラスの子みたいには叫んだりしないよ」
「え?ウソでしょ?」
 すずは、信じていない様子。
「本当だよ?」
「そっか。ちょっと安心した。私だけじゃなくて同じ気持ちの人がいるって思うと、嬉しいの」
 すずと私は同じ気持ちだったんだ。
「すず、これからよろしくね!」
 笑顔で言った。
「うん!」
「じゃあ、寮に戻ろっ!」
 私とすずは寮に戻り、就寝した。
 翌日、朝食を食べに食堂へ行った。
 昨日とは違い、私はすずと来ていた。
「いただきまーす!」
 喋りながら朝食を食べ、授業に行く。
 二十分休み。
「里奈!私、委員会あるから、また後で!」
 すずは行ってしまい、私はいつも通り図書室へ行った。
 今日は誰もいない。珍しい。
 そう思い、本を探していると。
「……⁉」
 グイッと腕を引っ張られ、何事かと思えば、後数センチで顔が触れるところに東堂蓮がいた。
「ちょっ……と!」
 勢いよく蓮を突き放した。
 私の顔は真っ赤になった。
「ぷっ……!ははっ」
「なっ……!」
「何ですか!急に⁉」
「いや、イタズラだよっ」
 東堂君はニコニコと言った。
「イタズラだとしても……!急にこれはなくないですか⁉」
 こんなヤツ知らない。
 みんなから大人気の王子様は意地悪な王子様だった。
 私は不機嫌になってしまった。
 クラスの子には「大丈夫?」などと言われるがクラスの子に図書室でのことを話すと、たくさんの人の恨みを買ってしまいそうで言えない。
「すず、まだかな」
 六時間目まで終わり、寮へ戻りゆっくり休んでいると。
「ただいまー」
 すずが戻って来た。
「おかえりー」
 勉強をして、夕食の時間になった。
「里奈、食堂行こ!」
「そうだね!」
 食堂へ行くと。
「あ、王子様だぁ~!」
 クラスの子、いや、学園の生徒が集まっていた。
「あはは、集まってんね」
「ね。でも、興味ないんだわ」
 東堂君が一瞬こっちを向いてニコっと笑ったが私は強く睨み返した。
「……里奈?どうかしたの?怖い顔して」
 不思議そうにすずは聞いた。
「ん?いや、なんでもないよー?」
 本当は何でもなくはない。
 けれど、それを表に出すのは違う気がする。
 夕食を食べ、寮に戻ると。
「ねぇねぇ、里奈。明日休みだからさ、ショッピングモール行かない?」
「もちろん!私、久しぶりに行きたかったんだよねー!」
「そっか!じゃあ、また明日ね。おやすみなさい」
 楽しみだな。
 朝起きて、すずと私は笑顔で。
「じゃあ、行こ。すず!」
「うん!」
 ショッピングモールに着くと、たくさんの生徒がいた。
「まあ、近くにこんなに大きいショッピングモールがあったら、みんな行くよね」
 当然のことだが、改めて見ると実感する。
「すずー!なにする?」
 普通って何すればいいんだか。
「うーん……あ、私、本買ってもいい?」
「いいよ!」
 私達は本屋に行った。
「里奈とだったら、何時間でもいられそう!」
 そんなふうに思ってくれてたのか。
「私も!」
「あ、すず!次はあそこ行こ!」
 私は幼い頃に戻ったようにはしゃいだ。
 気づいたころにはもう夕方になっていた。
「あ、里奈ごめんね。私、課題が終わってないから、もう帰るけど里奈は?」
 迷っているとあることを思い出した。
 それは、新しいボールペンを買う事だ。
「ごめん、先に寮に戻ってて。私、文房具買いたいのあるから」
「うん。わかった!じゃあ、先に戻るね」
 すずと別れたところで私は文房具屋に行った。
「えっと、これとこれでいいかな」
 私は会計を済ませ、寮へ戻った。
 学園の門のところで誰かに腕を引っ張られたが暗くて誰だか分からなかった。
「──……⁉」
 私はパニックになり、どうすればいいか分からなかった。
 東堂君なのか。
 けれど、いたずらっ子な東堂君にしては度が過ぎている。
「うっ……」
 助けて、と声を出したいのに。
 声が出ない。
 早く離してほしい。
 グイッとさらに引っ張られ、人目のない場所にいた。
「──……ねぇ、おっさん、その子離したら?離さなとどうなるかわかってる?」
 今度は東堂君に腕を引っ張られた。
「──⁉と、東堂君⁉」
 びっくりした。
 だけど私を引っ張っていたのは誰なのか。
 そう思っていたら、パトカーの音が聞こえた。
「え?」
 警察の人が来て、私のことを誘拐しようとしていた人は警察官に連れていかれた。
「もう大丈夫」
 そうやって東堂君が優しく声をかけてくれた。
 私の脚は震えて、私は地面に座り込んだ。
「ほら、寮に戻ろう」
 東堂君はそういって私を抱き上げた。
「え?ちょっと、東堂君⁉」
「……春はあけぼの。じゃあ、夏は?」
 何で急に‘’枕草子‘’?
「‘’夏は夜‘’よ……なんで今言うの?」
 意味が分からない。
「今の季節は夏でしょ?この学園の景色見てみてよ。ほら」
 東堂君はそう言い、森になっている方を見た。
「……?あ!蛍!」
 森の方を見ると蛍が飛び交っていて、とても美しかった。
 気付けば、脚の震えは止まっていた。
 東堂君はそのまま私を抱きかかえたまま部屋に向かった。
 東堂君は私の部屋の扉をノックした。
「はーい?」
 すずの声が聞こえた。
「里奈⁉それに、東堂君……」
 東堂君は私を下ろしてすずに事情を説明していた。
 そのまま、東堂君は自分の寮に戻っていった。
 翌日、彩羽先輩が私の部屋に来た。
「里奈ちゃん、少しいいかしら?」
「はい。すず、私行ってくるね」
 彩羽先輩はいつもの笑顔だが、そこには不安そうな気持ちが読み取れた。
「失礼します」
 彩羽先輩と私が入ったのは、まさかの生徒会室。
「直接呼び出してごめんな」
 そういったのは生徒会長の鬼塚(おにづか)由愛(ゆめ)先輩だ。
 生徒会長をやっていて、鬼の一族。
 あやかしとしても強い。
 凛々しくて、カッコイイって有名な先輩。
「いいえ。大丈夫です。……あの、私、何かしてしまいましたか?」
 怯えながら聞いた。
「いや、何かしたってわけでは……だが、今日は昨日のことで話をしたいんだ。そこに座ってくれ」
 失礼のないようにしないと。
「はい。先輩も昨日のこと、知ってたんですか?」
「私は東堂蓮に聞いた。それと、君に謝らなければならない。すまなかった」
「東堂君がですか?それに、先輩が謝る?どうしてですか?」
 私は聞きたいことだらけだった。
「実は今日、学園の敷地内に結界を張る予定だったんだが、昨日張って置けば良かったな。すまないな。怖い思いをさせてしまって」
 確かに怖かったけど。
「いえ。全然平気です!……先輩が張ってくださった結界でたくさんの生徒が助かるのならそれで大丈夫です」
「ありがとう。君も今後は気を付けてくれると助かる」
「はい。わかりました」
「……そういえば、里奈ちゃんのこと助けてくれたのって」
 彩羽先輩が聞いた。
「同じクラスの東堂君が助けてくれました」
「あやかしがいて良かったな」
 会長さんが言った後。
「化け狐ということ利用するとは……なんとも賢いですね」
 そういったのは生徒会・副会長の鬼村(おにむら)明華(あきか)先輩。
 明華先輩は会長さんの右腕とも言われるほどの実力。
 明華先輩は、会長さんと同じ鬼。
 会長さんと明華先輩は親戚。
 運動能力抜群で大人気の先輩。
「そうだな。君が『誘拐されかけるところを見かけて、警察を呼び、気づかれないよう狐になっていた』か……」
 そんなことをしていたとは。
「あの、本当にご迷惑をおかけしてごめんなさい!」
「里奈ちゃんが無事で良かったわね」
 私は授業があるので、生徒会室を出て行った。
 教室で、東堂君を見つけた。
 東堂君にまだ、お礼言っていなかった。
 ちゃんと言わないと。
「あ、東堂君!」
「ん?昨日、大丈夫だった?」
「うん。その……昨日はありがとう」
 私は東堂君に頭を下げた。
「いえいえ。……小栗さんが無事で良かったじゃん」
 会長さんが言っていたこと気になるな。
「あのさ、さっきまで生徒会室にいたんだけど。東堂君が会長さんに話したって……それって本当?」
「生徒会室って……その話、誰から聞いた?」
「会長さんだよ」
「由愛のヤツ、余計なこと言うなよ……」
「えっ?由愛って……会長さんのこと呼び捨てにしちゃダメじゃない?」
「由愛と俺は幼馴染みなんだよ。家同士が仲良いっていうか、だから由愛とも古馴染みで呼び捨ても許可もらってるし」
「そうなんだ……だけど、本当にありがとう。助かった」
 これだけは、本当に感謝している。
「別に平気だっての。じゃあ、図書室行こうよ」
 少しはかっこよかったし。付き合ってやるか。
 私と東堂君は図書室へ来た。
「久しぶりに『枕草子』借りようかな」
 私がそう言うと。
「『枕草子』?なんで?」
「あの時、『枕草子』のさ、『春はあけぼの』って東堂君が言ってくれたじゃない。なんか、安心したっていうか……だから借りようかなーって」
 そう。あの時、東堂君が私の気持ちを紛らわしてくれた。
「ふーん……安心か」
 そうだ。東堂君に聞きたかったことが。
「ねぇ、東堂君はなんであの時、『枕草子』が思い浮かんだの?すぐに出てくるなんて、古典が好きとかじゃないと」
 私が聞くと。
「思い浮かんだ理由は、ふと、目に入った景色が森の方向だったからさ。それに、奇跡的に蛍までいたし。『蛍と夏』といったら、俺は『枕草子』を思い浮かべるってわけ」
「じゃあ、なんで古典なの?」
「ん?古典?前に小栗さんとここであった時言ったじゃん。俺、古典好きだって。それに、小栗さんからしたら、他のことで例えられるより、好きなことで例えてくれた方がいいのかなぁって思ったから」
「そっか、ありがとう」
 もうそろそろ寮に戻らないと。
「じゃあ、私は寮に戻るね」
 私は東堂君に向かって、手を振ろうとしたその時。
「待って……」
 軽く触れるだけだったが、私の唇と東堂君の唇が重なった。
「じゃあ、バイバイ」
 東堂君の耳は若干赤かった。
 私を置いて、東堂君は図書室を出て行ってしまった。
「えー⁉」
 私は急いで、寮に戻った。


 寮に戻ると、すずが本を読んでいた。
「ただいまー!」
「おかえりー」
 すずが読んでいる本。
 この間ショッピングモールに行った時買った本だ。
「その本、面白い?」
 私が聞くと。
「うん。面白いよ。買い物行って良かったねー!」
「そうね」
 あ、もう少しで夕食ね。
「ねぇ、すず。もう少ししたら食堂に行こう?」
「うん!今日のご飯なんだろね」
 そうして、食堂へ行くと、やはり、東堂君の周りは騒がしい。東堂君が私のことを見つけると、笑ってくれた。
 そして私も笑い返した。
 前みたく睨んだりはしないよ。
 寮に戻り、休んでいると。
「ねぇ、里奈って東堂君のこと好きなの?」
 ニヤニヤとすずが聞いてきた。
「どうしたらそうなんの?別に好きじゃないよ」
「え?だって、前だったら里奈は東堂君のこと睨んだりしてたのに今はニコって笑ってたじゃん!」
 それのどこが好きと繋がるのか。
「それって、好きと繋がる?ニコってしてないし!」
「今は自覚ないかもしれないけど、いつかそれがひっくり返るように変わるからね」
 言っていることの意味が分からない。
「じゃ、おやすみー!」
 そう言って、すずは寝てしまった。
 東堂君を好きなんて天地がひっくり返ってもあり得ない。
 そういうすずはどうなのだろうか。
「おはよ」
「おはよう、里奈」
 私とすずは食堂に向かった。
 そして、授業を受ける。
 いつもと変わらない日々。
 いいや。いつもは起きない事が今起きていた。
 休み時間、すずと移動していると。
「えー!なに?ケンカ?」
 学園の子達が騒いでいた。
「……って、あやかし同士のケンカじゃん」
 あやかし同士のケンカはとても危険と言われている。
 なぜかというと、あやかしは力が強いとか、特殊能力があるとか、私たち人間とは全く違う力を持っているため、ケンカが起 こっただけで大惨事。
 人間のケンカなら、自分達で解決出来るんだけど。
「おらぁぁぁ!!」
 ついに、一人のあやかしが力を出した。
「ねぇ!あれってヤバイよね?先輩呼んできた方がいいかな?」
 たくさんの生徒達が集まり、動揺していた。
side/由愛
一方、その頃、生徒会室では。
「……?なんか騒がしいな」
 生徒会室にいたのは、私、彩羽、明華の三人だった。
 窓から見えるのはたくさんの生徒が集まっていたこと。
「そうね……なにかあったのかしら?」
 生徒会室からはなにが起こっているかはよく見えない。
「何でしょうか。後で見に行きますか?」
「そうだな。この資料の整理が終わったら行こう」
 そう言って、仕事をしていると。
「失礼します!」
 入ってきたのは生徒だった。
「……どうかしたか?」
「あの……会長さんの力が必要なんです!来てください!」
 力が必要。
「わかった。行こう」
 そう言われ、連れて来られたのは渡り廊下だった。
「……?この力は──」
 私が感知したのはあやかしの力だった。
「え?会長……?」
 一気に注目は私に集まった。
「……何があったんだ」
 あやかし同士の喧嘩が見えた。なんとなく察した。
「喧嘩か。かなり厄介なことをしてくれたな……なら、力を使うか」
 私は電気を走らせ、喧嘩をしていた二人のあやかしを離した。
「すごい……」
「……みんな、もう少しで授業が始まる。教室に戻った方がいいぞ」
 私がそういうと、騒ぎは収まり、生徒達は戻っていった。