化け狐さん、襲わないでください!

 秋川さんの事で頭がモヤモヤしているのがスッキリ晴れた気がする。
 図書室で本を探していると
「……里奈。ちょっといい?」
 蓮が目の前にいた。
「い、いいけど……?」
 いつの間にか図書室を出て、寮の前まで来ていた。
「あのさ、もう少しで中間テストじゃん?」
「うん」
「だから、俺の部屋で勉強会、今度しない?」
 ビックリして思考が停止した。
「え、え……?」
「あ、ダメだったか?」
「いや、違うんだけど……いつに勉強会するの?」
「今週の土日は?」
「いいよ、じゃあねー!」
 そう言い、私は寮に戻った。

 蓮と勉強会まで、あと二日。
 なんだか、緊張して来た。
 そう思いながら次の時間の準備をしていると。
「里奈?」
 背後からヤンチャそうな男子の声が聞こえた。
 だけど、私を里奈呼びするのは、蓮やすずくらい。
 それに、男子!私に男友達なんていない!
 後ろを振り返ると記憶は薄いが見覚えのある顔だった。
「えっと、何か用?」
「あれ!?俺の事覚えてないんか?」
 その訛りがある喋り方で思い出した。
「陸斗?」
「そうやで!思い出したか?」
 一ノ瀬陸斗(いちのせりくと)、私の幼稚園からの幼馴染み。
 陸斗って同じクラスだったんだ。
「なかなか話す機会がなくてなぁ。やっと話せたーって思ったら、全然覚えてへんし……」
「ご、ごめんって。てか陸斗、めっちゃデカくなった?」
 幼稚園の頃は私よりも背が低かった。
「そうやろー?幼稚園の頃は里奈の方がうんとデカかったもんな……って、久しぶりに話す内容そこかい!」
「アハハッ!相変わらずツッコミなんだね」
 キレのあるツッコミはいつも皆の笑いの的だった。
「なぁ、里奈って彼氏おるんか?」
「え⁉い、いるけど……」
 恥ずかしながらに言った。
「うぉっ!マジか……里奈みたいなヤツに彼氏がおるんか?」
「私みたいなヤツってなによ!……ふふっ」
 久しぶりに会えて嬉しいな。
 今日は蓮と勉強会!
 蓮の部屋に行った。
「お、おじゃましま~す」
 おそるおそる入ると蓮の姿があった。
「いらっしゃい……」
 蓮の声が不機嫌だった。
「……?」
「ねぇ、昨日の男って誰?」
「昨日?男?」
 急になにがなんだかわからない。
 少し考えると陸斗の事かもしれないと思った。
「陸斗のこと?」
「……そう、そいつとどんな関係?」
「え?幼稚園の頃の友達」
「ふーん、里奈、あんまり俺以外の男と話しちゃダメだよ?里奈に好意を抱かれたら嫌だしね」
「う、うん、蓮もね?」
 蓮の身長が高いため、上目遣いになってしまった。
「その顔はダメ…まあ、勉強しよ」
 蓮は学年でも頭がいい方だから教えてもらった。
「蓮、これってどうやるの?」
「これは、この式をこの数に代えちゃえばいいだけ」
「あ、ありがとう!」
 目をキラキラさせて言うと蓮が愛おしそうに私を見てきた。
 蓮の美しい顔に見つめられると徐々に顔が熱くなった。
 思わず顔を両手で覆った。
「里奈、その可愛い顔は俺以外見せないでよ」
 その発言にもっと顔が熱くなった。
 とてもドキドキした勉強会でした。
「あ、授業始まっちゃう!」
 私はすぐに教室に戻った。
「ふぅ~」
「里奈。どうしたの?」
 すずが声を掛けてくれた。
「あ、ちょっとトイレ行ってたー!」
 次は……移動教室じゃん!準備しなくちゃ!
「あれ?教科書はどこ?」
 教科書がない。
「里奈?」
「ちょっと寮に戻る!」
「え?ちょ、ちょっと⁉もう授業始まっちゃうよ?」
 早くしないと。
 寮に戻って来た。
「あら?里奈ちゃん?どうしたの?」
 彩羽先輩。それに、明華先輩、会長さんも。
「あ、忘れ物があって……!」
 私は部屋に戻り、教科書を探すと
「えっと、あった!急ごう!」
 キーンコーンカーンコーン。
 どうしよう。始まってしまった。
 急いで寮を出ると。
「……里奈?」
「蓮⁉なんでここにいるの?」
 まさか、蓮もなにか忘れ物したのかな?
「俺は、友達と話してたら遅れた」
「なにそれ。ただのサボりじゃない。ふふっ」
 早く行かないと。
「ほ、ほら!早くしないと!」
「うん。行こっか」
 私と蓮は遅刻して先生に怒られてしまった。
「えー……学級委員、前に来い」
 先生に言われ、学級委員の子が出てきた。
「もう少しで修学旅行なんで、色々と計画を立てます」
 そう言われた瞬間
「うぉぉぉぉ!!」
 めちゃくちゃ盛り上がっている。
 休み時間になった。この時間では、決めきれなかったので、修学旅行の計画を立てる時間が増えた。
 ラッキーな事だ。
「修学旅行楽しみだねー!」
「うん!」
 クラスの子。いや、学年の子が口をそろえて言った。
 当たり前か。一年の中でとっても楽しみなことか。
 私たちは、京都に行く。
 修学旅行のことで話を持ち切りにしていた。
 私はすずとクラスの子で話していた。
「……話変わるけどいい?」
「いいよー!なになに?」
 なんの話だろう?
「なんか、五組に転校生が来たらしくて……めっちゃイケメンなの!」
 修学旅行の話から、急に変わったが。
「マジで⁉見に行こ!」
 皆、大騒ぎ。
 でも、それも青春の一つ。
「あ、あの子!」
 クラスの子が指をさしていた子は、白髪で青い目をしていた。
「あやかし……?」
「うん、猫のあやかしだったと思う。で、アメリカにいたらしい。だから、あんまり日本語喋れないって」
「いつも思うけど、この学園転校生多い」
「「ね」」
 皆、同時に言った。それほど共感できるのかも。
「こういう時こそ里奈の出番じゃん!」
 すずが言った。
「え?なんで私?」
「だって、里奈、アメリカにいたんでしょ?」
 私は、生まれはアメリカで小学校三年生までアメリカにいた。だから、英語の会話も多少はわかる。
「まあ、そうなんだけどさー……他にも英語得意な子はいるでしょ?」
 私が聞くと一斉に皆、首を横に振った。
「英語はマジで無理……」
「あー……マジか」
「じゃあ、話しかけてみてよ!」
「なに言えばいいの?」
「なんか、自己紹介的なの聞いてきてー!ウチらが言ってたって言ってね」
「いいよ。聞いてくる。私の練習も含めて……」
 私は、転校生のところへ行った。
 緊張する。
「こんにちは、突然ごめんね。お名前とか聞いてもいい?あの子達が聞いてって言ってて……」
 私はすずとクラスの子たちに視線を送った。
「……僕の名前はジャズだ。あの子達は君の友達?よろしくね」
 ジャズ……後で伝えよう。
「よろしくね。じゃあ、またね」
 そして、私はすずたちの下に帰って来た。
「はぁ~。久しぶりに英会話した」
「私たち、ホントになに言ってるかわからなかった……あ、名前聞けた?」
「うん。あの人の名前はジャズだって……」
 私は英会話のレッスンができた。なんだかんだ一石二鳥。

 私は、図書室に行った。
「あれ?蓮はいないのかな?」
 蓮の姿はなかった。その代わりに。
「……?」
 ジャズがいた。本が好きなのかな。
 ジャズは椅子に座り、何冊か本を開いて勉強をしていた。
「ジャズ。何してるの?」
 私とジャズの英会話が始まった。
「やぁ、里奈。日本語を覚えようと思って……」
「えらいね!」
「ありがとう」
「日本語、どのくらい話せるの?」
「簡単な日本語しか話せないけど……少し練習に付き合ってくれない?」
「わかった。いいよ」
 そして、私とジャズは日本語の練習を始めた。
 思っていたよりもジャズは日本語が上手だった。
「日本語上手だね!そういえば、修学旅行、明後日じゃない?」
 今更だが、気づいた。
 修学旅行が明後日ということ。
「そうだね。京都って何が有名なんだ?」
「京都はお寺だよ!」
 言っても私もそこまで詳しくはないのだが。
 日本語の練習と修学旅行の話で盛り上がった。
「遅くまでありがとう。またね」
 そう言ってジャズは図書室から出て行った。
 今日は修学旅行当日。皆盛り上がっている。
 なんだけど私は少し問題発生。
 数時間前。
「すず、観光の時の班って決まった?」
「決まったー!里奈は?」
「決まってなくて……他の子も皆決まっててどうしよう!」
 解決方法が思い浮かばない。
 それは今でも決まらないので私は一人で観光だ。
 寂しいけど一人でも大丈夫なはず。
 京都に着いた。
「えー京都に着きました。なので、決めた班で京都内なら、どこ行ってもいいですよ。ですが、四時になったら、ここに戻ってきてください。では、いってらっしゃい!」
 先生の言葉で一斉に皆が動き出した。
 まずは清水寺。
 楽しくて時間はすぐに過ぎていき、腕時計は三時半になった。
 んー、なにしようかな。
「脚が……痛い。捻っちゃったかな?」
 右脚首が痛い。
「まだ、一日目なのに……」
 この修学旅行は三泊四日。
 あと、三日もある。
 だけど、右脚首が治ってくれなきゃ何もできない。
 できない訳ではないが、これ以上悪化した方がもっと何もできなくなる。
 私は人目のない山で休んでいた。
「里奈?どうかしたのか?」
「蓮……」
 蓮は一人だった。
「あれ?蓮の班の人は?」
「ちょっと抜けてきた。それよりも……里奈の班の奴らは?」
「……実は、私、班がない。」
 そう言った瞬間、蓮はポカンとした顔になった。
「は?迷子か?なら、班員を誰か教えてくれれば」
 私は蓮の話を遮り。
「あの、そういう事じゃないの。元々いないの。寸前になっても私、班の人決まらなくて、皆だれかと組んでるから一人なの。だけど大丈夫だよ!」
「なら、俺と周ろうよ。明日から」
 嬉しいかった。
 けれど、問題点もある。
「それじゃあ、蓮の班の人はどうするの?」
「んー……どうにかして逃げ切る」
 無理がある気がする。
「うん!ありがとね!」
「ほら、戻らないと怒られる」
 そう言って蓮は私の腕を引っ張り、座っていた私を立たせようとしてくれた。
「痛ッ……⁉」
 右脚に激痛が走った。
「どうした!どこが痛いんだ?」
「……ッ!右脚を……さっき捻っちゃったかも」
 そう言い、私はまた座り込んだ。
「どの辺が痛い?」
 私は右脚首を指差した。
「……おいで」
 そう言って蓮は私をひょいとおんぶした。
「え……いいよ?重いし」
「大丈夫。脚が悪化する方が嫌でしょ?」
 私はコクンと頷いた。
 私は保健の先生のところに連れていかれ、蓮は先生に事情を説明した。
「……小栗さん、捻挫してしまってる。全治二週間ほど……残念だけど、明日の登山は部屋で休めるかしら?」
「はい……ありがとうございました。」
 これじゃあ、登山どころか修学旅行じゃなくなってしまう。
 私は皆より先に部屋に行った。
 生活班と活動班というものがあって、活動班は私一人だけど、生活班はすずや仲の良い子もいるからラッキーだ。
「だけど、明日とか何してればいいの?」
 それが問題点。
 捻挫は治るからいいけど、修学旅行はこれで終わっちゃう。
「あ、里奈ー!ただいまー!」
 すずや他の子も帰って来た。
「あ、おかえりー」
「里奈どうして先に来てたの?だって、どの班も今帰って来たんだよ?」
「あのね、捻挫しちゃった!あはは……」
 私は軽く笑ったが皆は目を丸くしていた。
「うぇ――!大丈夫なの⁉」
 皆焦っていた。
「うん。大丈夫だよ。心配かけちゃってごめんね」
「里奈が大丈夫ならいいんだけど。安静にね?」
 そういえば。
「ねぇねぇ、三日目ってキャンプファイヤーあるでしょ?」
「うん!一番の目玉はキャンプファイヤーでしょ!……里奈、見られるといいね!」
「うん」
 そして、二日目になった。
「じゃあ、里奈行ってきまーす!」
「いってらっしゃい」
 皆行ってしまった。
 なにしよう……そうだ読書。
 私は持ってきていた本を取り出し読み始めた。
 少しすると。
「里奈?」
 ジャズの声がした。
「ジャズ?登山は?」
「里奈こそどうしたの?僕は荷物を取りに来た」
 ジャズは前よりも日本語が話せるようになった。
「脚を痛めていしまって……」
「え?大丈夫?……骨折とかしてないよね?」
 骨折はしてないけど。
「捻挫しちゃった。それよりも、登山行かなきゃじゃない?」
「……うん。お大事に……待って」
 話が終わるかと思えば、私が座っていたベットにジャズが近づき、私を押し倒した。
「え……?」
 ジャズの顔と私の顔が数センチで触れるところまできた。
 軽く私の唇とジャズの唇が重なった。
「里奈。それに……誰だ?」
 この声は蓮だった。蓮が私たちを見ていた。
 最悪のタイミングだ。
「蓮、勘違いしないでね……?」
 蓮の顔は険しくなっていた。
「里奈、この人は誰?」
 ど、どうしよう。
「この人は彼氏だよ……」
 震え声で言った。
「僕は行くね」
「あ……待って!」
 行ってしまった。最高の修学旅行にしたかったのに、これでは、真逆。
「里奈……あいつとは、どういう関係だ?」
「……ただの友達」
 私は蓮の質問にそう答えた。
「なら、どうしてあんな事を?」
「どうしてって……私もわからないよ」
「そうか……」
 蓮まで行ってしまった。
 蓮の瞳は光がなかった。
 どうして。
 なんで話も聞いてくれないのだろう。
 こうして、二日目も終わってしまった。
 蓮やジャズにはどんな顔して会えばいいの。
side/蓮
 里奈の様子が気になり、里奈の部屋を訪れた。
「えーっと、ここか」
 俺が部屋を除くと里奈が他の男と一緒にいた。
 なにをやっているんだ。
「里奈?それに……誰だ?」
 見たことがない顔。
「蓮、勘違いしないでね……?」
 里奈の顔が見る見る真っ青になっていた。
 里奈と誰かは英会話をしていた。
 男の方はあやかしっぽいが、日本人ではなさそうだ。
 もしかしたらハーフなのかも。
 その男は出て行ってしまった。
 里奈はあいつのことを『友達』と言った。
 友達だったら、そんなことするのか。
 誰かを困らせることを。
 理由も聞いてもわからないと答えられた。
 俺には言えないのか。
 俺はどんな顔で里奈に会えばいいのかもうわからなくなってきた。

化け狐さん、襲わないでください!

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