これが漫画や小説の主人公なら、一念発起した永島達樹少年はドラ●エよろしく学内を駆けずり回って仲間を集め、軽音など触れたこともないような頭数だけのヤツらとぶつかりあいながら、みんなで文化祭のステージを目指す一大青春スペクタクルが始まる…ところだけど。
 残念ながら、5月になっても、6月になっても、俺は軽音部の存続に名前を貸してやろうというヤツすら見つけられなかった。
「あーッ! 歌いてぇ〜!!」
 帰り道の河原に自転車を放り出し、俺は草むらに大の字をキメた。
 もともとそれなりに歌が上手い方だと思っている俺は、去年、文化祭の見学に来て軽音部のステージを見てから、この東高校でバンドデビューすると心に決めて、受験勉強を頑張ってきたのだ。
 それがまさか、全員3年生だったなんて。まあ、今にして思えば、だからこそあんなに心に響く熱い演奏だったのかもしれないけど…。
 それにしたって、その熱意と歌唱欲が行き場をなくしてもう2ヶ月。一人でカラオケも飽きたし、バイトもしてない俺には金が続かない。友達は軒並み何らかの部活に入って毎日先輩たちにしごかれているか、バイトを始めたり、できたばかりの彼女と帰ったり。みんな青春の謳歌先を見つけた今、一人でダラダラ帰宅してるのは俺くらいだ。
 梅雨入り目前の河原は蒸し暑く、蚊もいる。自分でテリトリーに踏み込んでおきながら、俺は無性に腹が立った。
「くそっ!」
 起き上がって、あ~ッともう一度大声を出す。腹から、発声練習でもするように。
 そのまま、カラオケでよく歌う歌をサビからぶっ放した。
 大きめの川で、それなりに水流もキツく音が紛れてくれるので、この川沿いに楽器や歌の練習に来る人は多い。俺の歌声も、そう遠くまでいかないうちにかき消されているだろうと、かなり声を張り上げて歌い募った。
 そこへ…

 ギッ!!
 錆び気味な自転車のブレーキ音。
 びっくりして振り返ると、俺と同じ高校の制服を着た女子生徒が、急停車の主ですという形状で背後に存在していた。
 膝丈のスカートと、肩ぐらいの黒髪がサラサラと軽やかに川辺の風になびいている。名札が赤い。2年生か。
「いい声だね。青い名札…1年生? 部活、やってないの?」
 東高2年生と思しき女子生徒は、思いのほか良く通る声で話しかけてきた。腹まで芯の通ったオーラのある声に、俺は一瞬だけ、気圧された。
「えっ、まぁ…軽音部やりたかったんスけど、なくなっちゃって。歌うのは好きなんスけどね」
 声を褒められ、俄に調子に乗った俺はアンニュイな笑みを浮かべたつもりで「居場所のない孤独な俺」を演出してカッコつける。
「そっか。そういえば軽音部、去年みんな卒業しちゃったもんね…。ねぇ、歌が好きなら…合唱部は興味ない?」
 すとっ。