こんな量の「歌」をぶつけたら、小さな燈子先輩が倒れてしまうのではないか…俺の中から押し出されようとする「歌」の壮絶なエネルギーに、俺自身が恐怖しながら、助けを乞うように俺は壇上の燈子先輩を見て。
目が合った。
燈子先輩は俺を見て、たぶん動揺を感じ取って…挑発するように眉を吊り上げ、もう一度ニィッ…と笑った。
──達樹くん、大丈夫だから。かかってこい。
両手を広げた燈子先輩は、全然小さくなんかなかった。20人分の歌声全てをその細い両腕で全て受け止め、一本に束ねて、さらに後ろの空間へと解き放つ、そんな安心感と包容力を持った、ただ大きな存在だった。
俺は心底安堵して、その左手に導かれるまま、ありったけの酸素を第一音に乗せて燈子先輩に叩きつけたのだった…。
途中、何度か間違えた。
俺は歌うのは好きだけど、所詮はボーカル志望のカラオケ上がり。メロディーを追うことには慣れていたけど、テナーはいわゆる内声で、メロディーを追いかけたりハモったりと忙しくてあまりメロディーの担当は回ってこない。
他のパートにつられて自分の音が分からなくなることは何度かあったが、そのたびに後ろのリーダーと隣の翔太の歌声を聴いて乗り切った。
何よりも…燈子先輩の指揮から振り落とされるのが嫌で、俺はとにかく必死に曲に食いついていった。
「…………疲れた………」
帰り道。
俺は完全に酸欠のような状態になって、河原に倒れこんでいた。
「頼む、もう無理…ちょっと休憩」
「もー達樹ってば! なっさけないなぁ、それじゃバンドのボーカルだって無理だったんじゃないの?」
「黙れ…うっ」
喋るだけで、酷使された腹筋が攣りそうだ。
全体合わせ練習で燈子先輩に蹂躙された俺の体は、最後の通し練習でとどめを刺された。
隣にどさっと腰を下ろした翔太に毒づく体力すら、残されていない。
川まで歩いただけでも頑張った方だと思う。褒めろ。
「合唱って…ハードなんだなぁ…」
俺は率直な感想を口にするので精一杯だった。語彙力のなさが光る。
「あはは。達樹はまだ筋トレや発声練習が追い付いてないから、余計にキツかったかもね…体をしっかり作っておけば、燈子先輩のブレスにもついてこれるし、歌に集中できるよ」
翔太が心の底から情けなさそうに俺を嗤う。
目が合った。
燈子先輩は俺を見て、たぶん動揺を感じ取って…挑発するように眉を吊り上げ、もう一度ニィッ…と笑った。
──達樹くん、大丈夫だから。かかってこい。
両手を広げた燈子先輩は、全然小さくなんかなかった。20人分の歌声全てをその細い両腕で全て受け止め、一本に束ねて、さらに後ろの空間へと解き放つ、そんな安心感と包容力を持った、ただ大きな存在だった。
俺は心底安堵して、その左手に導かれるまま、ありったけの酸素を第一音に乗せて燈子先輩に叩きつけたのだった…。
途中、何度か間違えた。
俺は歌うのは好きだけど、所詮はボーカル志望のカラオケ上がり。メロディーを追うことには慣れていたけど、テナーはいわゆる内声で、メロディーを追いかけたりハモったりと忙しくてあまりメロディーの担当は回ってこない。
他のパートにつられて自分の音が分からなくなることは何度かあったが、そのたびに後ろのリーダーと隣の翔太の歌声を聴いて乗り切った。
何よりも…燈子先輩の指揮から振り落とされるのが嫌で、俺はとにかく必死に曲に食いついていった。
「…………疲れた………」
帰り道。
俺は完全に酸欠のような状態になって、河原に倒れこんでいた。
「頼む、もう無理…ちょっと休憩」
「もー達樹ってば! なっさけないなぁ、それじゃバンドのボーカルだって無理だったんじゃないの?」
「黙れ…うっ」
喋るだけで、酷使された腹筋が攣りそうだ。
全体合わせ練習で燈子先輩に蹂躙された俺の体は、最後の通し練習でとどめを刺された。
隣にどさっと腰を下ろした翔太に毒づく体力すら、残されていない。
川まで歩いただけでも頑張った方だと思う。褒めろ。
「合唱って…ハードなんだなぁ…」
俺は率直な感想を口にするので精一杯だった。語彙力のなさが光る。
「あはは。達樹はまだ筋トレや発声練習が追い付いてないから、余計にキツかったかもね…体をしっかり作っておけば、燈子先輩のブレスにもついてこれるし、歌に集中できるよ」
翔太が心の底から情けなさそうに俺を嗤う。