四時に琥珀亭へ行くと、真輝はもういつものバーテンダーの服で身を包んでいた。髪もきっちりまとめられている。


「尊さん、サイズはどうでした? 身長は同じくらいだから問題ないと思うんですけれど」

 誰と同じなんですか?
 うっかり、そんな言葉が口をついて出そうになり、慌てて頷いた。

「大丈夫です。それより、あの、これなんですよね」

 苦笑する尊が目の前で広げたのはサロンだった。カフェの店員が腰の辺りで巻いているような、真っ黒で縦に長いエプロンだ。

「これ、どうすりゃいいですか?」

 真輝が笑い、サロンを受け取る。

「これはこうして……」

 真輝の手が、尊の腰に回された。
 紐を結びつける真輝の髪からいい匂いが漂って、尊の顔が思わず赤くなった。

「ほら、こうして前で結んで完成です」

「あ……ありがとうございます」

「うん、蝶ネクタイも似合ってますよ」

 お世辞かな、と苦笑する。ここに来る前に鏡を見てきたが、まるでお仕着せで我ながらおかしかったのだ。

「今度、バーテンダーの服を買いに行きましょうね。ワイシャツはできればこういう形の襟が両ネクタイ向けなので。ベストもいろいろあって、私のやつは襟つきなんです。選べますから、尊さんに似合うものを探しに行きましょう」

 真輝の言葉を聞きながら、尊の頭に浮かんでいるのは別のことだった。
 この男物を着ていた人は誰だろう。そして、今はどこで何をしているのか。そんな疑問がよぎる。頭から切り離そうと思っているのに、そう努めれば努めるほど、心にしこりを残していくようだった。
 だが、そこに踏み込む資格がないことは重々承知だった。手を伸ばせばすぐ届く距離にいるのに、真輝の横顔がやたら遠く見えた。