月曜日
よく晴れている。補習が終わった後の土日は雨が強かったが、今日は日差しが痛いくらいだ。
菜乃は補習の教室に向かっていた。
補習はもうないのだが。
ーーばかだなあ。
教室に行けば、また彼に会えるような気がして。
ーー幽霊だったんだ。
菜乃は翔太との会話を思い出す。
病気で学校に来られなかったこと。キーホルダーを買いに行けなかったこと。触ろうとしたら拒否されたこと。
そのどれもが、彼がこの世の者ではないと証明していたと思った。
ーーもう、会えないのに。
目尻に涙が浮かんでくる。
ーー楽しかったのに。一緒にいられて嬉しかったのに。
菜乃は暗い気持ちで教室のドアを開けた。 「え?」
そこには、彼がいた。
菜乃に気づくと、驚いたように目を見開き、そして嬉しそうにわずかに口元を綻ばせた。 「秋山!」
菜乃は駆け寄ろうとしたが、足が動かなかった。
ーーきっと、辛くなる。
彼は幽霊なのだ。これ以上一緒にいたら、離れたくなくなってしまう。
「びっくりした。なんで来てるんだ。葉山、もう補習はないよ」
真顔で翔太が指摘する。
「……それはこっちの台詞だよ」
菜乃は泣きたいのを堪えて、言葉を絞り出した。
「なんで来てるの!? 幽霊なのに!」
叫ぶと、涙も止まらなくなった。
ーーもっと会いたいって思っちゃうじゃん!
菜乃は諦めて声を上げて泣いた。
ーーもう会えない人なのに。
ーー好きになっちゃいけない人なのに。
「ーー幽霊?」
翔太は眉を寄せた。そして、はっと気づいたように口を開けた。
「俺、生きてるよ?」
「ーーは?」
菜乃は間抜けな声を出した。翔太は戸惑ったような表情でこちらを見ている。
「一学期の終わりに手術が成功して、今日退院した。二学期からは普通に学校に通えることになったんだけど」
翔太は焦っているような声で説明する。
「ーー待ちきれなくて、幽体離脱して補習受けてた」
菜乃の中で時が止まった。
幽体離脱とか、ありえる? いやそれを言ったら幽霊だってありえないかもだけど!
「だ、だって幽霊だから触れない……」
まだ信じられなくて口をぱくぱくさせる。 「だから生きてるって」
翔太は怒ったように頬を染めると、手を伸ばしてくる。
「ほら」
「わっ」
目元の涙を拭ってくれた指は、確かに温かかった。
おわり