「よーし、補習これで終わりだぞ」
教師が解放の宣言をした。
「ばんざーい!」
菜乃は椅子に座ったまま思わず万歳をする。
隣をそっと窺うと、翔太は相変わらず真面目な顔をして前を向いていた。
教師が菜乃のほうに歩いてくる。
「一人なのによく頑張ったな」
「はい! ……え?」
菜乃はその言葉に違和感を覚えた。教師は上機嫌で黒板のほうに戻っていく。
「ひとり?」
菜乃は口の中で繰り返す。
ーーひとりじゃないよ。だって隣に。
菜乃はぎくりと体が硬直する。そして、ひとつの予感を覚えて、そっと隣を見た。
そこには、翔太の姿はなかった。
雨の音だけが、菜乃の耳に響いた。