木曜日

「じゃーん。あたしも買ってきちゃったー」
 菜乃は蝉の鳴き声が聞こえる教室に入ると、開口一番そう言い翔太にお揃いのキーホルダーを見せた。
「おはよう。ぴんきーだな」
 翔太はうんうんと何度も頷いた。顔は無表情だが、頬が少し紅潮している。きっと趣味が同じ仲間に会えて嬉しいのだ。
「お小遣い、今回だけって言って早めに貰ったんだ。秋山の見てたらすぐ欲しくなっちゃって」
「うん、売り切れる前に買っておいたほうがいい。俺は買いに行けないから母親に買ってきてもらった」
 翔太はキーホルダーを大事そうに触りながら呟いた。
「え、いいな。秋山んちのお母さん、理解あるね!」  翔太はこっくりと頷く。 「うちは、母さんのがオタクだから」
 菜乃は手を叩いた。
「何それ、うらやましー! いいお母さんだね!」
 すると翔太は一瞬目を見開いたあと、嬉しそうにゆっくりと口元を綻ばせた。
 菜乃はその表情を見て、瞬間頬が熱くなった。
 ーーん? 熱中症かな。やばいぞ。