水曜日

「おっはよー」  今日も真夏の暑さだ。菜乃はハンカチで額をふきふき教室に入る。気の重い補習だが、補習前の十分間、翔太とおしゃべりをするのが楽しくなってきていた。
 菜乃は足取り軽くとことこと翔太の隣に歩いて行き、そして目を見はった。
「ーーぴんきーちゃん!」
 翔太はびっくりしたように少しのけぞった。が、菜乃はおかまいなしだ。翔太のペンケースにかぶりつく。
「これ、昨日発売のぴんきーちゃんのキーホルダーだよね!」
 ぴんきーちゃんとは、深夜アニメのうさぎのキャラクターである。菜乃は最近ハマっていて、お小遣いが出たらこのグッズを買おうと思っていた。
「葉山、ぴんきー、好きなのか?」
 きょとんとしながら翔太が首を傾げた。菜乃は興奮した。
「好きもなにも! 今期一押しアニメだよ! 特にぴんきーちゃんはかわいいよ」
「……俺も、ぴんきーが一番好きだな」
「だよねー! 昨日のぴんきーちゃんの活躍、見た? あれさー」
 菜乃は語りに熱が入った。それは、教師が教室にやってくるまで止まることはなかった。
 ーー意外。秋山深夜アニメなんか見てなさそうなのに。
 ーー嬉しいな。