火曜日

「おはよー」
 菜乃は今日も補習にやってきた。補習の始まる十分前行動だ。翔太は今日もそれより早く来ていた。
「おはよう」
 翔太が真顔で挨拶を返した。相変わらず表情が乏しい少年だ。
「ねえねえ、秋山。昨日の補習よくわかった?」
 菜乃は実はちんぷんかんぷんだった。家で復習をしようと思ったが、昨日はつい遊びに行ってしまった。さすがに零点はまずかったと思っているので、やる気はある。今日から。
「だいたいわかった」
 翔太は手元の教科書をぺらぺらとめくった。 「さっすがー。すごく真面目に聞いてたもんね。勉強、好きなの?」
 翔太はこくんと頷いた。
「偉いね! あたしだいきらーい! って、自慢することじゃないやんかー」
 自分で突っ込みを入れると、翔太はわずかにおかしそうに笑った。
 そこでふと菜乃は疑問になる。勉強が好きだというのに。
「なんで零点取っちゃったの?」
 こてんと首を傾げて問うと、翔太はわずかに眉を下げた。
「ちょっと病気で……。一学期はほとんど授業に出られなかった」
「そっかー。それじゃ仕方ないよね」
 菜乃はつられて眉を下げる。
 ーーせっかく勉強が好きなのに。
 健康体の菜乃にはわからない苦労がきっとあるのだろう。
 ーーかわいそうだなあ。