月曜日

「あれ? 先客」
 菜乃は驚いて思わず声を上げた。
 零点を取った生徒が自分以外にもいるとは。
 暑い日差しの照りつける教室。目の前には、一人の少年が制服のシャツの襟を暑そうにぱたぱたしながら座っていた。
 高校一年生の菜乃は勉強ができない。一学期の期末テストの数学で見事に零点を取ってしまった。菜乃は夏休みの最初の五日間、強制的に補習を受けさせられることになった。
「おはようございまーす」
 菜乃が挨拶すると、少年はこちらをちらと見てぺこんと無表情のままお辞儀をした。菜乃もにこっと笑ってお辞儀を返す。
「イヤだね-。せっかくの高校最初の夏休みに補習なんて」
 菜乃が愚痴を言うと、少年は「そうか」と呟いた。どうやら無口な少年らしい。
 彼の座る机の隣に菜乃は腰を下ろした。
「あたし、三組の葉山菜乃。よろしくね」
 少年はこくんと頷くと「一組、秋山翔太」と細い声で返した。
「山同士でおそろいだね!」
 そう笑うと、少年はわずかに微笑んだ。 「お、ちゃんと来てるな」
 十分ほどすると教師が入ってきた。菜乃は五分前行動のさらに五分前行動を心がけていた。「じゃあ、教科書の五ページから」
 菜乃が隣を見ると、翔太は真剣な眼差しで黒板を見つめていた。
 真面目な子だな、と菜乃は思った。そして「負けないぞ」と気を引き締めた。