自宅の方角に向かおうとしたわたしの腕を、橘先輩が強めに握ってきた。

「その手紙は、誰のもの?」

「……」

「宛先も消印もないよね。自分で出しにいくわけじゃない。この状況から考えると、亡くなった篠崎さんの友人が書いたもので、それを誰かから受け取った。違う?」

「……仮にそうだったとして、橘先輩になにか関係があるんですか」

「もし、それが遺書だとしたら、決して捨てちゃいけない。友達が残した最後の言葉にはきっと大事なことが書かれているはずだ」

「捨てる?なにをいってるんですか?」

「もしかして、気づいてないのかい? その手紙を握りしめていることを」

 わたしはとっさに顔を下に向けた。
 見えなくてもわかる。手の中でくしゃくしゃになっている手紙のことが。
 わたしが知らずに握りつぶしていることが。

「きみは現実から目を背けようとしている。友達の死のショックに耐えられず、すべてをなかったことにしようとしているんだ」

 この手紙をどうしようかはわたしが決めること。あんたには関係がない。
 すべてを見透かしたようなことを言って、ほんとうざい。

「そんなことをすれば君自身を追い込むことになる。いまはいいかもしれない。しかし、将来、きみは確実に自分のしたことを後悔する。そしてその罪悪感は、永遠に消えることはないんだ」

「もう黙ってくれませんか?関係のない人に口出しをされるのは不愉快なんで。あと、腕も離してください。わたし、部屋着のまま出てきたんで、早く着替えたいんですけど」

 腕の痛みがさらに増した。橘先輩の握る力がさらに強くなった。