わたしはしばらくそこに立っていた。
 渚ちゃんの言葉がまだ飲み込めていなかった。

 わたしは手紙を持っている。梨子ちゃんが書いたものだと渚ちゃんはいった。

 なにかあったら?渚ちゃんははっきりと自殺といった。

 でも、そんはずない。梨子ちゃんが自分で死ぬ理由なんてひとつだってないんだから。事故とかならまだわかる。でも自殺なんて。

「篠崎さん!」

 またわたしを呼ぶ声。一瞬でそれが誰の声かはわかった。

「……橘先輩?」

 またわたしに文句をいいに来たの?夏休みなのにわざわざ。

「わたしのこと、殴りにでもきたんですか? いいですよ。それでも。橘先輩の気持ちが晴れるのなら、思う存分やってください」

「ユマから聞いたんだ。篠崎さんの友達が亡くなったって。あいつ、後輩の知り合いが結構多くて、それでぼくに伝えたくれたんだ」

 また梨子ちゃんの話?
 もう、そんなのいいよ。みんな適当なことばっかりいって。

「最近、そういうの、はやってるんですか? 人を騙して笑うだなんて、趣味悪いですよ」

「……篠崎さん」

「でも、先輩ならお似合いかもしれませんね。だってわたしのこと、殺したいくらい憎んでるんですよね。いいですよ、思う存分、殴ってくださいよ。ほら、気が済むまで殴ってくださいよ」

 わたしは顔をつき出すようにした。
 向こうからの反応は一切ない。

 さすがに橘先輩でも外じゃ無理ってことかな。
 きっと人目のないところなら平気で拳を振り上げたよね。

 何年もネチネチと執拗にわたしのことを怨み続けて、わざわざ告白をして、それから地獄に叩き落とすようなそんな性格の悪い先輩なら。

「とりあえず落ち着いてほしい。きみが戸惑う気持ちはよくわかるよ。でも、一時の感情に流されて自暴自棄になるのは、亡くなった友達も望んではいないはずだ」

 またそれなの?
 亡くなったとかって、勝手に決めつけて。

「わたしもう帰ります」